憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

-ジンクスー 7

2022-12-06 15:40:45 | ボーマン・ボーマン・5 -ジンクスー

夕食をたべおえて、もう、いい頃だなと

ボーマンは店の鍵を落とす。


まあ、こんな遅くに調剤を頼みに来る客なんてこないのだけど、

それでも、ボーマンは8時までは店をあけておく。


8時閉店をまちかねるかのように、

電話がはいってきた。


案の定、ハロルドだ。


「俺だけどさ・・」


「なんだよ?」


逢ってもなかなか本題をいいださないやつだけど、

電話でも同じだ。


「今から・・いっていいか?」


「かまわねえけど・・」


ボーマンの返事の続きを聞かないうちにあわてて電話を切るハロルドが

今、どういう状態かボーマンには手にとるようにわかる。


ケイトのところにも、泊まれなくなってしまった。

リサのところにかえるしかないが、

ボーマンがもう、離婚手続きをすませてるのなら、

リサのところにも帰れない。


行く当てがなくなっちまったハロルドは

ボーマンの店先にでも仮眠するしかなくなる。


まず、離婚手続きがどういうことになったか、確かめず

うっかり、泊めてくれといったら、ケイトとの破綻もばれてしまう。


妙なプライドと見栄ばっかり、気にするようだから、

結局、鼻もひっかけてもらえなくなる。


この憐れな男を俺まで見放したら

どうなることやら・・・。


ボーマンはため息交じりで、締めたばかりの店の鍵をあけ、

店先の門灯を点け、ボリュームをおとして、店の照明もつけておいた。


調剤室のまるまっちい椅子を店の中に引っ張り出し

ボーマンはそこで、煙草をくゆらせながら、

ハロルドを待つことにした。
電話から15分。

そろそろ、ハロルドの車の光が向こうの山際にみえてもよさそうなきがする。

あれかな?

と、光をおいながら、ボーマンは玄関先につったって、

また、ひとつ、煙草をふかした。


やがて、緩やかな光がボーマンの視線の中にはいってきた。

白っぽい車体はハロルドの車にまちがいないだろう。


パーキングに車をとめて、車をおりたち、歩み寄ってくるハロルドの姿は

ひどく憔悴しているようにみえる。

店先のボーマンに気がついたのか、ハロルドがゆっくり手をふっていた。

歩み寄ってきたハロルドの顔が門灯にうかびあがる。

「なんだよ、幽霊みてえな顔しやがって・・」


ボーマンの一言でハロルドの糸がきれていった。

ボーマンに悟られないように、そう思っていたのに

憔悴をさらしているとつげられれば、

ハロルドを支えていた見栄もプライドも捨て去るしかないということになる。


「ま、はいれよ・・」


店の中にはいるとボーマンはちょっと待ってろとハロルドを制した。

「ここで、話そうや」

キッチンで話せば、ニーネの耳にも聞こえる。

かといって、ニーネをキッチンからおいだすのも気分が悪い。

「ビールをとってくる」

ハロルドに硝酸で焼け焦げた椅子をすすめると

ボーマンは冷蔵庫をあさりにいった。


「あら?」

明日のパンをこねていたニーネが、冷蔵庫をあさるボーマンを見咎めた。

「むこうで・・な」

ニーネにはきかせたくない話なんだなとボーマンの気使いを悟ると

「ハロルド?」って、訪問者を確かめた。

「ああ・・」

ボーマンの返事は短いけど、ニーネにはわかっている。

ちょっと、気弱くて、寂しがりやのハロルドを一番、心配しているのが

ボーマンだってことを。


「上のほうに、生ハムがあったはずよ。あと、チーズがあるから、

テーブルのとこのクラッカーでも・・」

「うん」

ニーネの心使いにありがとうって、胸の中でつぶやくと、ボーマンはハロルドを待たせている店に戻った。

小さなテーブルをひっぱりだすようにハロルドに指図して、

テーブルの上にビールとつまみを並べて

やっとふたりは、ビールにありつくことになる。


「あの・・」

「あん?」

「ん・・・あのさ・・」

「だから、なんだよ・・」

「ん・・あの・・もう、リサの手続き・・おわっちまったんだよな?」


「ああ」

「だよな・・」


「でもさ・・」

「でもさ?って、なんだよ・・」

「リサが書類を提出するところまで、見届けてくれた?」


往生際が悪いってのは、こういうのをいうんだろう。

「リサが提出しようが、すまいが、お前はサインをした時に

決着ついてるだろ?

決着がついた相手がどうしょうが、こうしようが関係ないだろう?」


「あ、そうじゃなくて・・ケイトが・・」

苦しい嘘はやはり、簡単には口を突いてこないと見える。

「ケイトが・・はやく・・籍を・いれようって・・」


「ああ、そういうことかよ。

それで、喧嘩にでもなったのかよ?」

「ああ・・まあ・・そういうことだよ」

「どうりで、浮かない顔をしてたわけだな。

リサのほうは、明日にでも、提出しにいくんじゃないかな」

と、いうことはまだ、離婚しちまったわけじゃないってことではある。

「そうかな?俺、リサはいかないんじゃないかなって・・

そんなきがしてさ・・」

「ふ~~~~ん?

そうじゃないだろう?

行ってほしくないお前だってことを

リサがわかってるって、思いたいだけじゃないのかい?」

「ボーマン・・それ、どういう意味だよ・・」

ぼろが出ないように、ハロルドが言葉を選んでいる。

ボーマンも、それが、かまだってばれないようにつくろってみせる。

「せいせい、したってばかりに提出しにいかれちゃ、おまえだって、

気分よくないだろうが?

ちっとは、ためらいためらい、決心してほしいだろうが?

違うか?」

「ああ・・そういう意味?

そりゃあ・・そうだよ」

「そういう意味?って、なんか、ほかに意味あんのかよ?」


ハロルドがあわてて首をふった。

「あるわけないじゃないか・・。ボーマンのいうとおりだよ

ただ、未練がましいってとられるかとおもってさ・・」

「ああ。男のほうがいざとなったら、みれんがましいもんさ。

リサは・・いや・・なんでもない」

思わせぶりに匂わせてボーマンは言葉をきった。

「なんだよ?いいかけて、やめるなんて、ボーマンらしくないじゃないか」

ー上等。上等ー

ボーマンの策略にのせられているとはおもいもしないハロルドが

ボーマンに食い下がってきた。

あくまでも、リサがきになるんじゃなくて、

ボーマンが途中で口ごもったのが気に入らないだけだといいのけてみせて・・・。

「そうか・・俺らしくないか?」

仔細ありげにボーマンは考え込むふりをする。

「う~~ん。まあ、ケイトのほうがそういう気持ちなら、別にかまわないか・・」

独り言をハロルドにきこえるようにつぶやく。

「ケ・・ケイトがそういう気持ちならって?」

ハロルドの嘘はケイトがハロルドと早く一緒になりたいって、ことだ。

早く一緒になりたいって、気持ちなら、喋ってもかまわないというリサの態度って、つまり、別れる事ができて、さばさばしてるってことになるのか?

ハロルドの額にじっとりと、汗がにじむ。


「俺が見た感じだけどさ。

なんか、渡りに舟って、くらい、あっさりしてたからなあ・・。

ああ、みえても、リサって、女らしいっていうか、けっこう、いろっぽいじゃんか・・。

それをほかの男だって、魅力だとおもってるだろう?

でも、亭主がいるのならって、半分あきらめてる。

でも、なかにはさ、リサに本気になる男がいる・・。

で、アプローチかけてみるものの、リサは身持ちが固い。

でも、リサにしてみりゃ、ろくでもない亭主をかんがえりゃ、

そいつのことは、にくからず・・。

そこへ、お前がケイトのところにいっちまう。

リサの中でおまえのことがふっきれちまったのと同時に

そいつとやりなおそうっておもったんじゃねえのかな?


まあ、あくまでも、俺の推理だけどさ・・


お前はケイトとうまくいくし、リサも仮にそういう男がいてさ・・


こうなると、、今回の離婚はお互いにとって、

いいきっかけになったってことで、

良い離婚になるかなあ。って、俺はおもったわけだ」


ちらり、と、ハロルドを見る。

まっさおになってるところをみると、

行く当てをなくしただけじゃなく、

いまさら、リサへの本心にきがついたか?


「良い離婚のわけなんか・・ない・・」

ハロルドがこらえきれず、小さな声で本音をもらした。

ボーマンはきこえなかったふりをした。



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