やっと秋らしい日々になってきました。今週はiPS細胞関連の輝かしいニュースがあり再生医療の明るい未来を感じることができます。体細胞の全能性幹細胞型の初期化がどのようにおこるのかは未だに明らかとはいえない部分があるのですが、ともかく応用へむけて努力をしていくことがその解明にもつながっていくのではないかと思います。応用と基礎が協力し合う形で進んで行ければベストだと思います。
生命科学はとうとう個体のコピーを作製できるという倫理的に重大な局面まで来てしまいました。私はiPS細胞についてあまりここでは書いてきませんでした。この技術のもつ社会的影響の大きさを扱いきれないと考えていたからです。iPS細胞作成技術によってコピー個体が作成可能になったということはすでに多くのメディアの報道するところとなりました。今からは多くの方にこの技術の詳細を知って頂いて何がおこる可能性があるのかを把握して頂きたいと考えます。
iPS細胞作成技術のなにがすごいのかといいますと、これまでは無理だと考えられていた初期胚様の全能性幹細胞が皮膚などの体細胞からできるようになったということです。それまでは初期胚から分離して来るES細胞作成技術が全能性細胞作成の唯一の方法だったのです。これは材料としてヒトの初期胚が必要であり現存する個人のコピーを作ることは不可能でした。しかしiPS細胞作成技術はそれを可能にしたのです。iPS細胞は例えばあなたの皮膚の細胞から作製できます。そこからあなたのコピー人間を作製するにはまだいくつかの困難な工程がありますが、理論的には作成が可能です。
再生医療への応用を考えるとき、現存する個人の体細胞から全能性幹細胞を作製できるという点は大変重要になります。再生治療の必要な患者さん自身の細胞から治療用の細胞を作製できるからです。ES細胞では沢山の種類のバンクをつくり、そのなかから患者さんによく似た表面抗原をもつ細胞を選び出し使用するしかなかったのです。ただ緊急を要する場合にはiPS細胞の作成には何ヶ月もかかりますから間に合いません。そこで同様のiPS細胞バンクを作製する必要があります。
今現在はiPS細胞から各種臓器細胞を誘導し再生医療を加速するという明るい面が前面に出されています。しかし他方ではあなたのコピー人間ができるという側面もあるのだということを敢えて書いておこうと思います。すでに倫理的問題については専門の方々が検討していらっしゃると思いますが、いつの世にもそれをすり抜けて技術が用いられていきます。現実に動物レベルではコピー個体が誕生しています。現在の科学的理論上ヒトでも可能であるとしか言いようがありません。これからは厳重な監視が必要であると思います。
付け加えるならばたとえ遺伝子的に同一のコピー人間が作製されたとしても記憶を含めたその元の個人の人生全てがコピーされるのではありません。いわば年の離れた一卵性双生児の兄弟姉妹が誕生するということです。その新しく生まれたコピー人間は全く別の環境で別の人生を生きるわけです。
さらに付け加えるならばまだ未発見の重大なゲノムへの影響が残されている可能性があります。コピー人間特有の障害が見つかるかもしれません。マウスなどの小動物ではいまのところがんの発症率が高いという影響がありますが、霊長類ではもっと別の形で顕われる可能性があります。それが発見されれば倫理的な監視も法律上の規定のみという生温いものではなくなるでしょう。その決定的な影響をいっそのこと公開しないという手もありますね。究極の世界倫理的機密としてWHOのような機関が管理していければよいのかもしれません。
それにしてもあのちょっと情けない報道は残念ですね。あの方ももう見栄の重荷を下ろされて今後は地道な良心の人生を歩まれてほしいと思います。大分前に捏造論文のことを書きましたがそれよりは罪は軽いような気がします。税金から捻出された研究費で捏造論文を仕立てた方々のことこそを、もっときちんと追跡し報道するべきではないかと思います。