クルーズ船の乗員乗客の皆様と検疫に関わった全ての皆様、本当にお疲れさまでした。下船されて、ご自宅にお帰りになった皆様も、まだこれから2週間はすっきりしない日々ではあるかと思います。どうぞ、ゆったりとお過ごしください。
いろいろなご意見があって、あちこちで議論が盛り上がっていますが、それは良いことだと思います。日本の現状のどこに問題があるのか、だんだん明らかになってきています。
ざっくり整理すれば
1)厚労省の組織体制が古い形態であること。
2)今回は(本当の)専門家による現場のセッティングが貫徹されなかったこと。
が皆さんのご指摘の焦点かと思います。
1)はまあ、おいておくとして(私が述べるまでもなく、多くの方が指摘済みですので)、2)についてなぜこの状況なのか。なぜ専門家があまり騒がないのか。
誤解を恐れずに書きますと、今回のウイルス感染症の症状がそれほど激烈なものではない、という認識があるからかもしれません。これがSARS, MERSに匹敵する症状と致死率の感染症であった場合、国内の専門家、国際機関からの強烈な圧力により、全く異なった対応になったと思います。
今回の対応はあまり人々の負担にならない程度の緩やかな隔離体制であったと思います。そうでなければ現場に副大臣や厚労省の幹部(医学的には一般人)が入ったりなどあり得ないことです。
間違ってもSARS, MERS級の感染症との認識が専門家の中にあったら、このように緩やかな措置では済まなかったでしょう。
しかし、だからといって公に「感染しても軽症だから大丈夫。」とはなりません。実際、免疫系、呼吸器系に問題のある、糖尿病のかたや高齢の方など重症化する可能性があるため、できるだけ感染を拡げない措置は取るべきでしょう。
今回はそのような状況のなか、クルーズ船の乗客の方たちの検疫が行われたのです。
ベストは船外での検疫ですが、3700人の方が2週間快適に過ごせる施設を用意した場合、その費用はどのようにするのでしょうか?日本国からは、既に検査の経費など相当額の出費がなされています。それに加えて旅行者の滞在費は流石にどうでしょうか?かといって、船会社も保険会社も出せないというでしょう。
もちろんSARS, MERS級の感染症であったら、そんなことは言っていられません。乗客乗員の属する国から、何らかの医療チームの派遣をお願いし、世界的規模で検疫体制が組まれたはずです。
今回はそこまでの感染症ではない、という点で、緩やかに推移したのではないでしょうか。
国立感染症研究所から下記(現在の最新版)のようなレポートが定期的に出されています。
(2020年2月19日掲載)
2月18日時点での症例報告をみますと、クルーズ船の乗員乗客2404検体が検査され542検体が陽性(22.5%)。また陽性確定例531例のうち255名(48%)検体が採取された時点では無症状だったそうです。不顕性感染が多いのが分かります。逆に言えば、感染しても何も起きない方が結構いらっしゃるということです。
先日も検査法について書きましたが、国立感染症研究所は検体採取、輸送マニュアルを公開していました。
これを拝見しますと、これもかなり緩いです。この採取法ですと、なかなかPCR検査で陰性=感染無し、とは言い切れないかな、と思いました。この検体にウイルスの存在がごくわずかである可能性があること。保存、輸送の間に抽出するRNAが分解されてしまう可能性があります。検体の保存はやはりマイナス80度が望ましいのですが、なかなか検体を保存できるスペースを確保するのは大変でしょう。
ともかく、現時点で(あくまでも緩やかに)可能な対応をしていることが伝わります。もちろん、それで十分か?という問いであれば「イエス」とはいい難いでしょう。しかし、今回のウイルス感染に関しては、この対応でも致し方ない、という判断だったということでしょう。
ここには検出法の標準プロトコルも公開しています。予想通り、RNAを抽出し、リアルタイムRT-PCRで一気に検出、というものです。今や試薬類なども大分整備が進んだようですので、検査は迅速かつ高感度になっていくと思います。
今回のウイルスはSARSウイルスとよく似ており、SARS-CoV-2と名付けられたとのことです。ちなみにSARSウイルスはSARS-CoV。そして由来はコウモリと記述されています。初期の中国でのウイルスと最近の米国でのウイルスとほぼ同じであることから、今回のウイルス感染症は中国でヒト界に入ってきたウイルスが広まったものと結論してよいだろう、とあります。
さて、このようにSARSの類似ウイルスということですので、SARSはどのように始まり、終息したのか。知っておくことも重要でしょう。ちなみに約1年で終息しています。
CDCのサイトには親切にも日本語版があります。
CDCのSARSに関する情報。この機会に一読しておくのも悪くないかと。
これまで、SARS, MERS, COVID-19も含め、何種類ものコロナウイルスがヒト界に入ってきています。
今後も同様の事件が起こる可能性が考えられます。共通の抗体を用いた検査キットの開発などが必要かもしれません。抗ウイルス剤の開発も進められるでしょう。
何事にも備えあれば憂いなしです。