無知の知

ほたるぶくろの日記

COVID-19について - 最近の知見3

2020-05-10 16:00:04 | 生命科学
2)感染者検査の問題

今回は話題の検査についてです。

「検体採取問題 今は鼻粘膜で決着。最近のデータでは唾液も候補。」

と先日書きましたが、唾液が有力な検体候補というものは、紹介したNatureのまとめ記事の中にありました。

これが本当であれば、検体採取が非常に楽で安全になります。被験者も採取者も双方が楽になるのは素晴らしいことです。


その一方で「PCR検査数が少ない問題」がまた改めて取り沙汰されています。

SARS-CoV-2の検出は単なるPCRではなく、RNA抽出→逆転写反応→PCRで、検体を扱う手数が多い。そのため、扱う方の技術的レベルの差異、ミスが起きやすい点が問題となっています。

試薬、人、機器、この3つの質量が揃いませんと結果が出ません。先日の政府の話では人がボトルネックになっている、とのことでした。しかし、日本にこの検査をできる能力のある人が少ないため、ではないのです。

臨床試験、行政試験は国の認証を受けた機関が検査をしなくてはいけない、ことが原因なのです。そして、通常はそんなに多くの検査があるわけではありませんから、キャパシティは限られています。そしてすぐに人を増やしたり減らしたりはできない。

3つの条件が揃っている、民間の検査機関や大学、研究所は沢山あるのですが、厚労省のお墨付きがないと検査が許可されないのです。
勝手にやってもその結果は採用されないということになって、完全な無駄となります。

この辺りをどう解決するのか。

例えば疫学的調査に限っては行政組織以外でも検査が行えるようにする、などの臨時措置が必要かと思います。それに限らず、一部の臨床試験もやってもらうのが現実的かもしれません。

実際3月初め頃には、この縛りを緩和する通知も厚労省から出ているようです。地方自治体が決意すれば臨時のPCRセンターが設置できるのです。そしてすでにそのような措置をとっているところもあります。

全自動PCR機器も出てきているので、あとは行政がどううまく使っていくか、でしょう。(利権が、、、という噂もありますが、裏が取れないので、やめておきます)


慈恵医大では自分たちの病院の医療体制を守るために、大学を挙げたPCR検査チームを立ち上げ、慈恵医大独自のPCR検査センターを作っています。患者さんに対し、PCR検査を徹底し、あらかじめ感染の有無を確めて診療を行う、というものです。心理的にも現場はとても安定し、よりスムーズな医療が提供できるようになると思います。

全ての方を検査するので、陰性の方の検査費用は保険診療請求はできません。病院の持ち出しということです。ただ、それでも十分の見返りが期待できると判断したようですし、実際その通りとなっているようです。

当該施設でのPCR検査の原価は700~800円とのこと。もちろん人件費は別です。慈恵医大は基礎研究部門も充実していますので、それこそ人的資源は豊富と言えます。ただ、今時RT-PCRは生命科学系実験では不可欠の基礎的実験技術です。生命科学系研究を行っている大学であれば同様の対応は可能かと思います。


インフルエンザのテストのような簡易キットはまだか?と思われる向きもあるでしょう。ウイルスの免疫学的検出が、インフルエンザのテストのように検出できるようになるためには、良い抗体(感度、特異度どちらも100%に近いもの)の作成が重要。
もう少し、時間がかかると思います。今すぐどうにかできる状況ではない。

やはり確実で手っ取り早いのはPCR体制の充実でしょう。


今年の八重桜ももう終わりです。

ところで、PCR以外の検査として今話題になっているのは、「人々が感染した経験があるかどうか」を、抗体の有無で検出する、抗体検査でしょう。

この検査ではROCHEの抗体検査キットが広く使われるようになるのだと思います。血液による検査を精度高く(感度、特異度)行うことができるようです。ほぼどちらも100%近い数値のようですから、さすがのROCHEです。先週米国で認可が降りました。日本も5月中には発売できるよう、動いているそうです。

米国は、経済活動を含めた全ての人間の活動を再開するにあたり、この抗体検査のデータを参考にするようです。
しかし、先日も書きましたが、実はここが難しいところなのです。

通常、ある病原体に対して抗体が観察されれば、その方はその病原体に対して免疫である。つまりその病原体により、感染症を発症することはない、というのが抗体の常識です。

ところが、このSARS-CoV-2をはじめ、SARS、MERSの原因コロナウイルスなどある種のウイルスに対しては、抗体と言っても厄介な性質の抗体を作る場合があるらしいのです。

詳細は次の項で書きますが、抗体を持っていればもう感染しない。感染しても軽く済む。とは言えないようなのです。

したがって、この抗体検査の結果では、少なくともウイルスに感染した経歴があるかどうかが分かり、人口のどのくらいに感染が広がったのか、を明らかにすることはできます。
しかし、残念なことに必ずしも人々が以前と同様の社会活動をしても大丈夫と、判断する材料にはならないのです。
(続く)

COVID-19について - 最近の知見2

2020-05-10 10:28:06 | 生命科学
先日、まとめの続きを、とお約束したまま日が過ぎてしまいました。

いろいろ裏をとる作業が思いがけず大掛かりなことになってしまい、時間がかかっておりました。



COVID-19について先日整理した順に、現状理解されていること、わかっていないこと、を明確にし、書いて行こうと思っています。

ただし、まず最初に先日、当ブログに陰謀論信奉者(ご自身で書いておられることの内容がいかに荒唐無稽であり、信頼性のないものであるかを理解されていないため、単にある論説を「信奉」しているとしか言いようがありません)と思しきかたから寄せられた「COVID-19生物兵器説」について、少々説明します。

(当該コメントは皆様のお目汚しのため、現在保留処理としています。ただ、そのような論説はちょっと探せばいくらでも転がっていますのでご興味のある方はどうぞそちらをご覧ください)

COVID-19による社会的混乱をおかしな方向に進ませかねない、政治的とも言える言説に対し、何らの対処もせず無視しているだけでは仕方ありません。

まず初めに少々、このことについて書いておきます。

これまでもこの手のことを説明する際、説明に不備があって、かえって誤った理解を招いてしまったこともあります。
少しでも不審や疑問などありましたら、コメントに書いていただけますと助かります。

1)SARS-CoV-2ウイルスそのものの問題
現在、某国某研究所がウイルスの起源である、という主張が主に米国からなされています。

しかし、少なくとも「人工的に作られたものではない」ということは明確とされています。

この人工的に作られたものではない「証拠」は遺伝子工学を専門として取り組んだ方なら簡単にわかることです。つまりこの方面の専門知識があるかどうかがわかる、いわば「踏み絵」となる知識ではあります。
ただし、今後のCOVID-19の理解に必要なものではないので、ここではあえて説明しません。

それでもご興味がある、とおっしゃる方は、まず基礎知識を固めた上で、論文にトライしてください。その気がない方はこれ以上の詮索は不要と思います。根拠のないデマを撒き散らすことは世の中のためになりません。厳に慎むべきでしょう。

未だに生物兵器として製作されたもの、との言説を述べている方を認めますが、その方達が、証拠としてあげている研究者の論文群の内容を見る限り、どう見てもその研究者は真面目に組み換えウイルスを作って、ウイルスの様々な部位のタンパク質の性質を調べる研究をされていたとしか思えません。

研究のために、ウイルス蛋白の一部を変異させたものを組み込んだ、組み換えウイルスを作るのは常套手段です。元のウイルスの変異体であることもあれば、効果の測定の方法が確立しているウイルスで変異体を作ることもあります。

武漢の研究所もコロナウイルスの「ある部分」のタンパク質の性質を詳細に研究するために、いろいろな組み合わせのコントロールウイルスを作成し、それらの間の相違を比較していました。

その研究者の論文をざっと見ましたが、SARS-CoV-2はSARS-CoVとも表面蛋白がだいぶん異なっており、SARSとは異なる機序で、異なる細胞に感染していくようでした。このような細かい知見を積み重ね、ウイルス感染の足がかりを特定し、そこをブロックする薬剤を探すのです。

少なくともこの研究者の論文からは、この方が怪しい研究活動をやっていたとは全く思えません。

先の著者は、この研究者が怪しい活動をしていた証拠品として論文を挙げているのにもかかわらず、「しかし私には専門用語が多く、その内容がよくわからない」と書いていました。

噴飯物です。書いている本人が内容がわからないと言っている、その「内容のわからない文書」を持って「証拠」だと主張する。あまりにいい加減な態度には本当に呆れます。これは冤罪の始まりです。名誉毀損で訴えられても仕方のない言論かとおもいます。ご本人はそのことに気づいておられるでしょうか?

この方は英語がかなりお得意な方らしいのですが、科学論文を理解できないことを、「専門用語を知らないから」と誤解しています。学問を冒涜していると言っても良いかもしれません。
英文を読める英米の方が、その論文をきちんと理解できる、と主張されているに等しい。

背景の基礎知識に対し、もっと真摯な態度が必要だと思います。
言語道断としか言いようがありません。

つまり、この方達の主張する「証拠」論文は全く証拠にはなっていませんので、生物兵器、と主張する根拠はないことになります。
また、現在のコロナ禍を乗り越える努力に対して、「生物兵器である」とする主張が一体誰のどういう役に立つというのでしょうか?単に世の中へ、政治的な不穏な空気を送り込もうとしているに過ぎないのではないでしょうか?

真摯にこの感染症の対処に取り組んでいる人々に対する大きな障害を作り出しているのです。ここまできますと敵対している、と言っても良いかもしれません。
先日も書きました、感染者や感染に対し危険な現場で日々COVID-19と格闘されている医療従事者、高齢者施設等の方たちにあり得ない暴挙を行う方達と共に、本当に情けない行動の方達と思います。


さて、それはともかく、万が一、研究所内のミスなどにより研究対象ウイルス(採取されたもののストックなど)が漏洩してしまったのであれば、それはそれとして公表し、現代のP4施設で起きた大きなインシデンスとして国際的検証チームによる徹底した検証が行われる必要があります。

なぜ、どのようにして漏れ出してしまったのか、どうすれば良かったのか。原因究明と対策の構築が急務です。

ただ、この辺りは中国の軍関係者も乗り出しているようで、公開での検証が難しいのかもしれません。米国が騒ぎ出しているのはその辺りにも何か引っかかる点があるからかもしれません。

非常に厄介です。今後もまだ、ここの点での議論は続くでしょうし、なかなか明らかにならない可能性があります。
しかし、はっきりしているのは、このCOVID-19は世界的な協調と共同的努力によってしか克服はできないということです。

その際に、その国際的協調をなんとか乱そうと企む方達がいるとすれば、それは文字通り世界を敵に回して何かを為そうとすることに他なりません。

私も含め、全ての人々は自分が何を為そうとしているのか、自分の行動の先にあるものは何か、を見極めて行動しなくてはならないでしょう。
(続く)

COVID-19そのものについて書きたいのですが、まずはその周辺に蠢く暗雲が目障りでしたので、今回はまずは露払いでした。