無知の知

ほたるぶくろの日記

COVID-19について - 最近の知見4

2020-05-11 07:20:14 | 生命科学
3)COVID-19の病態
先日、下記のようにざっくりと書きました。

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肺炎、髄膜炎、心筋炎、
サイトカインストーム(ごく稀)、免疫系への影響について

抗体のでき方に何か不審な点があります。
抗体(特にIgG)が沢山できている=感染に強い(免疫ができた)とはならない可能性があるのです。
これがなぜ、どのように起こるのか、は全く不明。

その鍵になるかもしれない論文が最近提出されました。
(詳細は明日に)

ワクチンはどうなるのか?いつできるのか?
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今回はCOVID-19に関して最も気になるワクチン関連のことについて書いていきます。


昨年の連休中の根津美術館のお庭。 今年は見られなくて残念です。

SARSが発生したのは2003年、もう17年前です。今回COVID-19が発生した際、コロナウイルス の一種ということが早くから報道されました。

当初、私は「それなら大丈夫かも」と思ったのでした。SARS、MERSの経験がありますから、おそらくはもうワクチンも開発されているだろうし、などと考えたからです。

ところが調べてみますと、なんとまだワクチンも治療薬もないということが分かったのです。

正直言って本当に驚きました。あれだけ致死性の高いウイルスに対して、我々は未だにほとんど無防備だということなのです。

そこで、今回、SARSのワクチン研究についても多少踏み込んで、色々な論文をあたりました。

分かってきたのは、どうやらコロナウイルス には厄介な性質があるらしい、ということです。感染して抗体ができることは、通常良いことなのですが、このウイルスの場合そうでない場合があるらしいのです。

SARSウイルスに対する「ある種の抗体」は、ウイルスを不活化するどころか、ウイルスが通常用いるレセプター分子ではなく別のレセプターを用いて、特にマクロファージなど、免疫系細胞に容易に侵入できるようにしてしますようなのです。

抗体依存性感染増強(Antibody Dependent Enhancement:ADE) という現象です。実験的にウイルスで免疫された血清からADEを起こす抗体を除き(どの抗体と特定はできないので、機能的に取り除く実験操作をします)、残ったその他の抗体を調べますと、確かにウイルスを不活化する中和抗体も産生されてはいるらしい。

普通、侵入微生物に対し、天文学的な数の種類、抗体分子が作られます。その中で有益な抗体分子を作るB細胞が選択され、抗体を増やすなど個体は侵入微生物に対応します。

SARS-CoV-2は、それに対する様々な抗体分子の中にどうも困った種類の抗体ができやすい、ウイルス抗原を持つということです。

例えばワクチンを接種したとして、本来はウイルスを防ぐ働きをするはずの生成された抗体が、逆にウイルスを引き入れ、感染を拡大してしまうというのですから、全くもって本末転倒な現象です。
(これって、最近報道されている三菱電機を襲った中国系ハッカーが仕掛けたウイルスの手口のようで、不謹慎ですが、個人的には凄く受けました。)

今のところ『どういう抗体がADEを起こすのか』はよくわかっていないようです。

SARSのほか、デング熱、エボラ出血熱、ジカ熱などの原因ウイルスでも同様の現象が見られ、ワクチン作成の足かせになっているそうです。

私は不勉強にも今回このことを初めて知りました。

恐ろしい現象です。それでSARS、MERSのワクチンもまだできていないのでした。


ウイルス感染によって色々な抗体ができ、確かに中和抗体もできるようですが、ADEを起こすものもできる。今のところそれを見分ける術がない。

これは厄介です。うっかりワクチンを打って抗体を作っておくと、次に感染した際、感染が増強されてしまうということになります。

これは自然に治癒した場合でもそうなのでしょうか?ジカ熱ではそういうことが起こっているようです。

非常に困ったウイルスです。このADEを克服しませんと、ワクチンに辿り着けないのです。

ワクチンを含む免疫問題の解決にはまだまだ時間がかかりそうな気配がします。


4)COVID-19に効果する食品?
この項目についてはこれ以上付け加えることはありません。これまで通り、偏りのない食生活をすることがまずは重要でしょう。
あえて、旧来の日本食はとても良さそうだ、とのみ、書かせていただきます。


5)治療薬について
レムデシビルが早々に認可されました。そのうちにはファビピラビル(アビガン)も認可されるでしょう。どちらも核酸アナログでウイルス増殖を抑える効果を持ちます。したがって、感染の初期に投与されることが重要。

肺炎が重症化する前に投与されることで人工呼吸器を必要とする患者さんを減らせる可能性があります。

問題は副作用。かなり強い副作用があるようです。
もちろん、この2薬に満足することなく、さらに副作用の少ない薬剤が探索されているようです。

イベルメクチンも抗ウイルス剤として効果する可能性がある、とのことで治験が始まるようです。これが有意であれば、大変な朗報です。


また急激な悪化を起こす、サイトカインストームに対しては、IL6阻害剤の可能性があるようです。リウマチの薬としてすでに使われている薬剤ですので、イベルメクチンと同様の対象症例を広げる治験が始まるようです。


上記したようにワクチンの作成に期待が持てない現状、良い治療薬が開発されるのを切に願っております。

治療も感染を早期に発見し、抗ウイルス剤を投与する、という方向へ舵を切ることになるのではないでしょうか。インフルエンザと同様の方針です。

「熱が4日続いたら・・・」の基準は撤廃されましたが、今後は「熱が出たらまず検査」になりそうです。そのためにもインフルエンザ検査キットのような良い検査キットの開発が急務です。

これもROCHEあたりはもう良い抗原を持っているようですから、期待できるのではないでしょうか。


さて、COVID-19の最近の知見の大筋は以上です。書いていて、皆さんが明るい気持ちになって頂けるのかどうか、懸念しています。
ただ、今回のパンデミックにより、さらに多くの生命科学系研究者が改めてこの重大な感染症免疫問題に取り組むはずです。

研究の進展を祈ります。