「接合」という現象があります。二つの細胞が遺伝子を交換、あるいは融合させることをいいます。多細胞生物ではいわゆる受精を意味します。また細菌などの単細胞生物でもこのような現象のあることがわかっています。受精などのように二つの細胞がすっかり融合してしまうのではなく、細菌同士が一部で接触し、細胞質にあるプラスミドという遺伝子の輪を交換するのです。このプラスミドには薬剤耐性遺伝子がコードされていることが多々あります。この多剤耐性遺伝子が乗ったプラスミドが接合によって多剤耐性菌から他の菌へと伝達されますと、その菌も多剤耐性形質を獲得するわけです。
今はまだ大腸菌やアシネトバクター、肺炎桿菌などに多剤耐性遺伝子が確認されているのみですが、これらがいつ高病原性の細菌に伝達されるかはわからないのです。環境に広く定着している状態では、時間の問題と考えることもでき、それによっては新たな抗生物質の製造や、新薬の認定を急がなくてはなりません。
ここまで状況が逼迫しているということを改めて認識させられました。もうずいぶん前からこの危険性は予想されていましたし、実際MRSAなどが問題にされたこともあったのですが、SARSや新型インフルエンザなどもあって注意がそらされていました。しかし、基本的に清潔を維持する操作とはウイルスも細菌も同様です。微生物を拡げない。感染を拡げない。居住空間を微生物から守る技術は同様なのです。
特別な薬剤を使ったりせず、手洗いや洗濯、汚物の分別。これらがその全てです。医療関係者のみならず一般のわれわれも、家庭や通常の社会生活で注意することで様々の感染症を防ぐことが可能です。もう一度基本に戻って衛生的な生活とは何かを考え直したいと思います。