今回は、大分古い話になりますが(笑)、山の天気ハイキングで塔ノ岳に行ったときに見られた雲について説明します。
平地の天気予報はずばり「晴れ」。関東のすぐ沖合に高気圧があって、これだけを見ると、丹沢は朝から晴れそうです。
この日、朝の天気図が下図になります。
図1 当日午前6時の地上天気図
ところが、実際は朝から曇り(山麓では曇り時々晴れ)。どよーんとした低い雲が表尾根から鍋割山の上空を覆っています(下の写真参照)。
写真1 朝6時頃の雲の様子(秦野市街から塔ノ岳方面を望む)
私も朝早い時間は晴れ間が出るかもしれないと思ったものの、日中は概ね低い雲に覆われると前日、予想していました。なぜでしょう?
図2 当日朝6時の相当温位と風予想図(850hPa面、高度約1,500m)
それは、ひとつには、丹沢の南側には相模湾という海があり、海の上の空気は水分が蒸発して湿っています。高気圧の後面に入って地表付近は南風となり、湿った相模湾からの空気が流れ込みやすくなっていること。
もうひとつは上図の相当温位と風予想図にある通り、南から水蒸気を多く含んだ空気(水色の部分)が丹沢の方に流れ込んでいること。相対湿度が高い(下図で黄色、オレンジや赤色の部分)がやはり、相模湾の方から流れ込んでくる予想になっていたからでした。
図3 900hPa面(高度約1,000m)の相対湿度予想図と風予想図(当日朝7時)
さらに、山の雲は波を打つようになっていき、写真2(下)のように。
大倉に向かうバスの中では面白い雲が見られました(写真3)。
写真3 三ノ塔、大山上空に波を打つような雲が現れる。
このように山の形に沿ってうねったように見られるのは、山によって山岳波と呼ばれる気流の乱れができるためです。風が山によって蛇行したように波打ってできる現象です。丹沢から風下側に少し離れた館野のエマグラム(空気の状態を表した図)を見てみましょう。
図4 この日の午前9時、館野のエマグラム
丹沢と館野はやや離れていますが、この日は下層で南西風が卓越しているので、図3のように丹沢方面からの湿った空気が館野に9時頃には到達しており、空気の状態に大きな違いがないため、参考にします。
気温と露点温度の間隔が空いている程、空気は乾いていて、近づいている程、空気が湿っていることを表しています。また、気温は上空に向かって下がっていくのが普通ですが(左上に線が延びていく)、800hPa(高度約2,000m付近)で線が上空に向かって右側に延びています。これは上空に行くほど気温が高くなっている所で、気温が逆転した状態であることから、逆転層(青色の部分)と呼びます。逆転層があると、空気は非常に安定しており、雲はこれより上部へ行くことができません。丹沢上空に見られる灰色の雲は、この逆転層にてっぺんを押さえられています。また、そのすぐ下には非常に湿った空気の層(赤色の部分)があります。これが雲ができている層です。この層の辺りで南風がやや強まって、山を越えるときに風が上下運動を起こしたものと思われます。
今回はちょっと難しかったですね。
※図:気象庁提供
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写真、文責:猪熊隆之