山の天気予報

ヤマテンからのお知らせや写真投稿などを行います。

猪熊隆之の観天望気講座83

2016-06-01 21:57:50 | 観天望気

今回は、大分古い話になりますが(笑)、山の天気ハイキングで塔ノ岳に行ったときに見られた雲について説明します。

平地の天気予報はずばり「晴れ」。関東のすぐ沖合に高気圧があって、これだけを見ると、丹沢は朝から晴れそうです。

この日、朝の天気図が下図になります。

図1 当日午前6時の地上天気図

ところが、実際は朝から曇り(山麓では曇り時々晴れ)。どよーんとした低い雲が表尾根から鍋割山の上空を覆っています(下の写真参照)。

写真1 朝6時頃の雲の様子(秦野市街から塔ノ岳方面を望む)

私も朝早い時間は晴れ間が出るかもしれないと思ったものの、日中は概ね低い雲に覆われると前日、予想していました。なぜでしょう?

図2 当日朝6時の相当温位と風予想図(850hPa面、高度約1,500m)

それは、ひとつには、丹沢の南側には相模湾という海があり、海の上の空気は水分が蒸発して湿っています。高気圧の後面に入って地表付近は南風となり、湿った相模湾からの空気が流れ込みやすくなっていること。

もうひとつは上図の相当温位と風予想図にある通り、南から水蒸気を多く含んだ空気(水色の部分)が丹沢の方に流れ込んでいること。相対湿度が高い(下図で黄色、オレンジや赤色の部分)がやはり、相模湾の方から流れ込んでくる予想になっていたからでした。

図3 900hPa面(高度約1,000m)の相対湿度予想図と風予想図(当日朝7時)

さらに、山の雲は波を打つようになっていき、写真2(下)のように。

大倉に向かうバスの中では面白い雲が見られました(写真3)。

写真3 三ノ塔、大山上空に波を打つような雲が現れる。

このように山の形に沿ってうねったように見られるのは、山によって山岳波と呼ばれる気流の乱れができるためです。風が山によって蛇行したように波打ってできる現象です。丹沢から風下側に少し離れた館野のエマグラム(空気の状態を表した図)を見てみましょう。

図4 この日の午前9時、館野のエマグラム

 

丹沢と館野はやや離れていますが、この日は下層で南西風が卓越しているので、図3のように丹沢方面からの湿った空気が館野に9時頃には到達しており、空気の状態に大きな違いがないため、参考にします。

気温と露点温度の間隔が空いている程、空気は乾いていて、近づいている程、空気が湿っていることを表しています。また、気温は上空に向かって下がっていくのが普通ですが(左上に線が延びていく)、800hPa(高度約2,000m付近)で線が上空に向かって右側に延びています。これは上空に行くほど気温が高くなっている所で、気温が逆転した状態であることから、逆転層(青色の部分)と呼びます。逆転層があると、空気は非常に安定しており、雲はこれより上部へ行くことができません。丹沢上空に見られる灰色の雲は、この逆転層にてっぺんを押さえられています。また、そのすぐ下には非常に湿った空気の層(赤色の部分)があります。これが雲ができている層です。この層の辺りで南風がやや強まって、山を越えるときに風が上下運動を起こしたものと思われます。

今回はちょっと難しかったですね。

※図:気象庁提供

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

写真、文責:猪熊隆之

 

 

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猪熊隆之の観天望気講座82

2016-06-01 20:35:58 | 観天望気

今回は、南岸低気圧が接近したにも関わらず、天気が崩れなかったときの雲の変化を見ていきます。南岸低気圧が接近するときの雲変化は、

①  巻雲(けんうん)→②巻層雲(けんそううん)、または③巻積雲(けんせきうん)→④高層雲(こうそううん)→⑤乱層雲(らんそううん)

となります。今回も、①巻雲が現れました。

 

写真①巻雲

 

形状的には直接状で晴れ巻雲といった感じですが、晴れ巻雲でも天気が崩れるときがあります。そこで、その後の雲の変化に注目しましょう。

 

 

写真②巻積雲と巻層雲の波状雲

 

写真の下の方には、薄い雲が一面に広がっています。これは巻層雲です。その上側には巻層雲が幾筋にもなっています。これは波状雲と呼ばれ、空気が波打っているときに発生する雲です。四国の南海上の低気圧から伝わってきているものと思われます。これが西の空から広がっていくときは、天気が崩れることが多いのですが、今回は南の空に広がり、それが徐々に近づいてくる感じでした。

 

 

写真③ 乗鞍高原から中央アルプス(南東~南方向)を見る。

 

さらに、時間が経つと、中央アルプス方面の巻層雲の下に高積雲が混じるようになりました。また、巻層雲が徐々に北側に広がってきています。低気圧が西から近づいているのではなく、南の方にあることを物語っています。

 

 

写真④ 上空に巻層雲、南側に高層雲

 

 さらに時間が経つと、南側にあった巻層雲が接近して上空を覆うようになり、南の空には巻層雲より高度の低い、高層雲が広がってきました。こうなると、この後、高層雲が上空を覆い、乱層雲に変わってくると雨が降りだすと思う方が多いと思います。今回はそうはなりませんでした。それはなぜでしょう。

最大の理由は、四国沖の低気圧が北上することなく、日本の南海上を離れて通過したためです。従って、南の空ほど雲が厚く、北ほど晴れていました。また、西の空から雲が広がってくることはありませんでした。このときの天気図を見てみましょう。

 

 

天気図1 4月1日9時 実況天気図

 

四国沖に低気圧があり、東へ進んでいます。低気圧から温暖前線が延びていますが、天気が崩れるときは、前線の位置は赤い破線のように、もう少し北側に延びます。今回は南へ垂れ下がるような位置にあるため、温暖前線に伴う雲が北に広がらなかったと思われます。

 また、低気圧の動きも北寄りに進むのではなく、むしろ南に下がり気味に進んでいきました。これは上空の風の流れが西から東方向へ吹いていたためです。下図を見ると、四国付近から南へ延びる上層の気圧の谷があり、そのすぐ東側に地上の低気圧があります。そして、その辺りは等高度線が東西に寝ており、上空の風向は等高度線に平行に吹くことから、低気圧付近では西風が吹いていると思われます。低気圧はこの風に流されて東へ進んだ訳です。

 

 

天気図2 500hPa高度・渦度解析図(1日15時)

 

 このようなとき、目的の山が低気圧から離れているほど天気の崩れが小さくなります。今回の乗鞍岳でも、低気圧から離れていたため、巻雲→巻層雲→高層雲という雲の変化が西の空からやってくるのではなく、南側から徐々に北上していく形でした。梅雨前線や秋雨前線が北上してくるときには、このようにして天気が崩れることがありますが、南岸低気圧の場合は、高層雲が広がってもそれ以上崩れることがないことが多いです。南岸低気圧が接近しても、天気が崩れないケースがあることを、雲の状況や天気図から知っておくと、動ける日が多くなると思います。

 

※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

文責:猪熊隆之

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雲から山の天気を学ぼう(第4回)

2016-06-01 20:35:22 | 観天望気

雲から山の天気を学ぼう(第4回)

今回は、雲の中でも低い高度(約2km以下)に浮かんでいる下層雲について紹介します。

 

Ⅰ.下層雲(低いところに浮かんでいる雲)

 下層雲は、対流雲(次回説明します)を含めることもありますが、ここでは対流雲と下層雲を区別します。したがって、ここでの下層雲は層積雲と層雲の2種類です。

 

a)層積雲(うね雲)

 雲の塊が大きく、雲と雲の間が畑のうねのように見えることから、通称・うね雲とも呼ばれる。海から冷たい空気が流れ込んできたときに良く発生し、関東や山陰地方では北東からの湿った風が吹くときに良く現われる。また、西日本では冬型の気圧配置のときによく出現する。この雲の下ではどんよりとした曇り空となるが、基本的に雲頂高度が2km以下の薄い雲なので、2,000m以上の山岳では雲海の上で晴れていることが多い。また、雲が山を越えられないので、山脈の反対側では晴れている。

 

図1 北東からの湿った空気が吹くときの気圧配置

上の天気図は、関東地方で北東からの湿った空気が吹くときの気圧配置。高気圧が関東地方から見て北側や北東側にあるときに、このような風が吹く

 

図2 関東地方で北東風が吹くときの天気分布

図3 北東風が吹くときの天気分布としくみ(断面図)

 

b)層雲(きり雲)

 霧をもたらす雲で、きり雲とも呼ばれる。霧とは一般に、雲(水滴)が地面に接したときの呼称。層積雲よりもさらに薄い雲なので、赤外の衛星画像で見分けることは難しい。霧の発生要因は大きく分けて5つあるが、山では滑昇霧と呼ばれる、水蒸気を含んだ空気が山の斜面を上昇することで発生することが多い。ただ、山の場合は、他の雲がかかるときにも霧に覆われるので、どの雲かを判別することは難しい。

次回は、対流雲について学んでいきましょう。

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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今朝の八ヶ岳・甲斐駒

2016-06-01 08:11:30 | 日記

今朝の八ヶ岳・甲斐駒は晴れて、稜線がすっきりと見えています。

河口湖7時、2km8m/s、3km15m/s。熊谷7時、2km12m/s、3km27m/sです。

●赤岳天望荘(2722m) 7時現在 4℃ 晴れ 西風

今朝の最低気温 -2℃ 昨日の最高気温 8℃

●八ヶ岳山荘(1502m) 7時現在 10℃ 晴れ

今朝の最低気温 8℃ 昨日の最高気温 20℃

 

 

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