山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座113

2018-08-22 17:47:51 | 観天望気

ご無沙汰しております。今回は、7月10日(火)~11日(水)におこなわれた、岩手山での空見ハイキング時に見られた雲についての解説です。

この時期の東北地方は、例年、梅雨真っ盛り。それならなぜこの時期にツアーを設定したかと言うと、東北随一のコマクサ大群落を見るためです。

私は花好きなので、花が咲く時期には花見&空見ハイキングとなります。

さて、まずは登山前に気象リスクについて考えるために、この日の天気図を見てみましょう。

図1:7月10日6時の天気図(気象庁ホームページhttp://www.jma.go.jp/より)

上図をご覧いただくと、北海道の渡島半島付近に梅雨前線があります。岩手山はその南側に入り、前線に向かって暖かく湿った空気が入りやすい場所にはありますが、等圧線の間隔は広く、前線から多少、距離もありますので、雲は広がるものの、日中は大きな天気の崩れはないと予想しました。

昼前からの登山になりますので、避難小屋着は夕方になってしまいます。そこで、積乱雲の発達が心配になりますので、500hPa(高度約5,800m)の気温を見ると(図2)、特に強い寒気がないので落雷や強雨のリスクは少ないと判断しました(下層の暖かく湿った空気の流入も別の予想図を見て弱いことも判断の理由のひとつ)。

図2:7月10日15時の500hPa気温予想図(山の天気予報「専門・高層天気図」https://i.yamatenki.co.jp/ より)

また、10日21時の予想天気図を見ると、

図3:7月10日21時の予想天気図(気象庁ホームページhttp://www.jma.go.jp/より)

 前線の位置がわずかに南下しています。つまり、夜からは天気が崩れてくる可能性があった訳です。等圧線の間隔は広がっているものの、前線の南側では風が強まることが多く、風の強まりも予想しました。

さて、今回のように、停滞前線の南側に入るとき、どのような雲が見られるでしょうか?

図4:梅雨前線の構造と雲の分布(山と渓谷社「山岳気象大全」第4章より)

岩手山は前線の南側なので、上図で言えば、Gの辺りに位置します。ということは、積雲が発生しやすい場所ということになりますね。

さて、実際はどうだったでしょうか?

写真1:中腹から盛岡方面(南東方向)を見る

山腹に雲が発生していますが、これが積雲です。また、遠くには積雲がやや成長した(やる気を出し始めた)雄大積雲も浮かんでいます。

イメージ通りですね!さて、手前側の山腹にある雲はどのようにできたのでしょうか?

図5:山で雲が発生した理由

上図のように、北上平野(写真1の奥の方角)から入ってきた湿った空気が岩手山にぶつかって上昇してできた雲です。

上層に寒気が入るなど大気が不安定な状態だと、雲がやる気を出して落雷や強雨をもたらす積乱雲となっていきますが、この日はやる気がなく、中腹辺りで蒸発していました。この上昇気流は、晴れて風が弱い日の日中に発生する谷風によって発生したものです(図6参照)。

図6 岩手山山腹で発生した雲と谷風

さらに登っていくと、面白い雲が見られました。

写真2 壁のように立っている雲

 この雲は写真右手からのやや乾いた空気(橙色の矢印)と、奥側からの湿った空気(水色の矢印)がぶつかって上昇したためにできた雲です。

奥側から押し寄せてきた雲は、右側からの風によって押し戻されて上昇せざるをえなくなり、壁のように立った雲になったのです。

これは、岩手山を回り込んだ空気同士がぶつかったために発生した感じですね(図7参照)。

図7 岩手山を回り込んだ空気がぶつかり合い、さらに谷風が湿った空気を運ぶことでできた雲

 雲や景色を楽しみながら、夕方に避難小屋に到着。今日はここで泊まります。

そこで、明日の予想天気図を確認しました。

図8 7月11日9時の予想天気図(気象庁ホームページhttp://www.jma.go.jp/より)

これを見ると、梅雨前線は今日よりさらに南下し、岩手山に近づいてくることが予想されています。

つまり、明日の午前中は風雨が強まることが予想できる訳です。岩手山山頂付近は強風帯として知られています。

ということは、明日の登頂は厳しいかもしれない。ということで、元気なお客様は、今日中に登頂することにしました。

空を見上げると、日本海の方角に雨雲が(下の写真の赤いカコミ部分)。

天気は西から崩れることが多く、今日も上空は西風が吹いていたので、日本海、つまり西の空に雨雲があるということは、まもなく雨が降るということになります。

しかしながら、にわか雨は降っても、天気の本格的な崩れは夜になってからと予想していたので、山頂を目指すことにしました。

写真3 日本海方向に現れた雨雲

予想通り、途中で雨が降り出しましたが、風は弱く、強い雨にはならなかったのでそれほど濡れませんでした。

また、視界が良く効いたので遠くまで見渡すことができました。

写真4 日本海方向からの湿った空気の存在を教えてくれる雲

山頂から日本海の方向を見ると、低い雲がもくもくと押し寄せてきています。これが日本海の上でたっぷりと水蒸気を含んだ空気の正体です。

雲はいつでも空気の気持ち(状態)を教えてくれてます。

翌日は予想通り、風雨が強くなり、登頂を諦めて引き返す人もいましたが、何とかお鉢を越えて焼走りルートのコマクサを見ることができました。

満開のコマクサを思う存分、満喫できました。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

 

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