~発達した低気圧が接近するときの雲変化~
今回は、気象遭難をもたらすことが多い、低気圧が発達しながら接近するときの雲の変化について解説していきます。高気圧に覆われているときは、ほとんど雲が現れませんが、高気圧の中心が東に抜けていくと巻雲(けんうん、別名すじ雲)が現れ、西の空から巻層雲(けんそううん、別名うす雲)が広がっていきます。
写真1 筋のように延びた半透明の雲が巻雲
写真2 巻層雲(うす雲)が広がっていく
通常は薄雲が全天を覆うようになると、西や南西の方角の空から灰色の高層雲(こうそううん、別名おぼろ雲)に変わっていきます。そうなると、山では数時間後に雨になります。
写真3 全天を覆う高層雲(おぼろ雲)
ところが、今回はおぼろ雲に変わる前に別の雲が現れました。高積雲(こうせきうん、別名ひつじ雲)です。
写真4 全天を覆うひつじ雲
写真4のように、うす雲が広がっているときに、全天の広い範囲にひつじ雲が現れるときは要注意です。この雲は、うろこ雲と同様に、「お味噌汁の原理」で発生する雲です。お味噌汁の原理は、観天望気講座103回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/bde8b7d9880a9c60757451375a388ef3 に解説してありますのでご参照ください。ひつじ雲は、うろこ雲より高度が低い所にあるため、雲の塊はうろこ雲より大きく見え、雲の底は灰色がかっています。
うろこ雲もひつじ雲も上空に前線帯ができたりして、狭い範囲で上下の密度差や温度差が大きくなるときに発生します。低気圧が急速に発達しながら接近してきたり、強い低気圧や台風などが遠くにあるときに、それらの低気圧や台風が引き起こす空気の波(乱れ)が伝わってきてできる雲とも言えます。うす雲から直接、おぼろ雲に変化せず、うろこ雲やひつじ雲が空の広い範囲に現れるときは、低気圧が発達しながら近づいてくることが多く、それは気象遭難が多発する気圧配置ですので、必ず最新の天気図や予想天気図で発達した低気圧や台風が近づいてこないかどうか確認してみましょう。
図1 雲が現れた翌日の予想天気図(気象庁HPより)
図2 図1の翌日の予想天気図(気象庁HPより)
実際、このときは翌日から翌々日にかけて、発達しながら低気圧が日本列島を通過していきました。北アルプスの標高の高い稜線では低気圧が抜けた16日に猛吹雪となり、低体温症に陥りやすい気象条件となりました。
写真4のひつじ雲が現れたあと、写真3のおぼろ雲に変わっていき、やがて写真5のように、八ヶ岳の南側で低い雲、層雲(そううん、別名きり雲)が現れてきます。地面付近にも湿った空気が入ってきている証拠で、おぼろ雲+きり雲になると、間もなく雨が降り出します。
写真5 八ヶ岳の南側に発生した層雲(きり雲)
一般的な低気圧の接近に伴う天気変化については、jROの自救力アップ講座「雲から山の天気を学ぼう」第7回 https://www.sangakujro.com/%e9%9b%b2%e3%81%8b%e3%82%89%e5%b1%b1%e3%81%ae%e5%a4%a9%e6%b0%97%e3%82%92%e5%ad%a6%e3%81%bc%e3%81%86%ef%bc%88%e7%ac%ac%ef%bc%97%e5%9b%9e%ef%bc%89/ あるいは観天望気講座126回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/921b5fc449efcd9887cc3ca4514e1f2a を併せてご覧いただくと、理解しやすいと思います。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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