山の天気予報

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猪熊隆之の観天望気講座138

2019-08-23 21:54:34 | 観天望気

~白山で見られた雲partⅠ~

今回は、白山での空見ハイキングで見られた雲と天気についての解説です。PartⅠでは登山初日の状況について、partⅡでは登山2日目の状況について解説していきます。

登山中の気象リスクを減らすには、次の2つのことが大切でした。

1.登山前に天気図を見て気象リスクを想定する。

2.登山中に雲や風の変化から、天候変化の予兆を早めに察知する

ということで、登山前日に発表された、登山当日の予想天気図を確認しましょう。

図1 登山前日に確認した登山1日目の予想天気図(気象庁ホームページより)

登山初日は、関東の南東海上と中国大陸に高気圧があり、日本付近はこの2つの高気圧に広く覆われています。関東の南東海上の高気圧は、「太平洋高気圧」と呼ばれ、その名の通り、太平洋に広く勢力を持つ高気圧で、梅雨明けと同時に、日本列島を広く覆うようになります。この高気圧に覆われると、朝から晴れて気温が上昇します。ただし、山では日中、谷風と呼ばれる風が山を上昇して、雲を発生させ、標高の低い山から雲に覆われていき、午後になると、標高の高い稜線でも霧に覆われることが多くなります。

大気が不安定なときには、雲がやる気を出して積乱雲(せきらんうん)に発達することがあり、落雷や強雨のリスクが高まります。そこで、これまでにも雲がやる気を出して、落雷や強雨のリスクが高まるときの天気図や雲の特徴について解説してきました。 

詳しくは観天望気講座132、133回をご参照ください。

132回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/8c5c72e621dacb03809863c923ff4c71

133回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/80881da68c1ee738abb8dfc3df1b18a2

さて、雲がやる気を出しやすい条件とは

1.上空高い所に寒気が入る

2.地上付近の気温が上昇する

3.地上付近に暖かく湿った空気が入る 

の3つでした。まず、1については500hPaの気温予想図を確認することが大切でしたね。

図2 登山前日に確認した登山1日目15時の500hPa面(高度約5,900m)気温予想図 https://i.yamatenki.co.jp/ より

この予想図で見るポイントはマイナス6℃の線。梅雨明けから秋雨に入るまでの間は、マイナス6℃以下の気温になると、雲が俄然、やる気を出しやすくなりました。1日目の午後の予想図を確認しますと、白山ではマイナス3℃より少し高い気温ということが分かります。ということは雲はやる気を出せない?

いやいや、そう簡単ではありません。上空高い所の寒気がそれほど強くなくても、地上付近の気温が上昇すれば、雲はやる気を出します。

ということで、地上付近の気温を予想するときに使う850hPa(高度約1,500m)の気温を確認しましょう。

図3 登山前日に確認した登山1日目15時の850hPa面(高度約1,500m)気温予想図 https://i.yamatenki.co.jp/ より

850hPa面で見ると21℃より少し低いエリアに白山は入っていることが分かります。850hPaで21℃になると、地上付近だと35℃以上の猛暑日になる確率が高くなります。

さて、850hPaの気温から500hPaの気温を差し引いた気温差によっても、雲のやる気を判断できることを観天望気講座133回で学びました。おさらいしてみましょう。

●850-500の気温27℃以上・・・雲が非常にやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが非常に高い)

●850-500の気温24℃以上・・・雲がやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが高い

●850-500の気温21℃以上・・・雲が少しやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクがやや高い)

今回は、500hPaで-3℃より少し高め、850hPaで21℃より少し低めということで、850-500は24℃より少し小さい値、ということになります。つまり、「雲がやる気を出す」と「雲が少しやる気を出す」の中間位で微妙な感じですね。

つまり、登山前日の段階では、計画を変更するほどのリスクではないけれど注意した方が良い、ということになります。本当は地上付近の気温があがり、谷風も強まって雲がやる気を出しやすくなる午後の登山は控えたいのですが、今回のツアーは金沢駅に10時過ぎに集合ということで、登山口を12時30分頃に出発する計画でしたから止むを得ません。あとは、現場で雲や風の状況を確認して、危険が迫ったら少しでも安全な所に避難する、ということが大切になります。

ということで、ここからは現場で見られた雲についての解説です。

写真1 別当出合付近から南側の雲

写真1は、スタート時点で登山口(別当出合付近)から南側を見た雲の写真です。観天望気講座135回では、どの方角の空を見たら良いかを学びました。基本的に雲は上空の風に流されていくので、雲の流れを見て、雲が向かってくる方角の空を見ることが大切です。今回は雲が南から北へ流れていきましたので、南側の空を観察しました。その様子が写真1です。雲はもくもくとやる気を出していますね。

ただ、12時を過ぎた時点で、この程度のやる気具合は「普通」です。特に危険でもなければ、安全でもない、ということで天気図から判断したのと同じように、ちょっと煮え切らない感じです。今後の動向に注意していくしかありません。

しかしながら、樹林帯に入り、空が見渡せる場所がありませんから、樹林が開けた場所で確認していきます。

写真2 樹林が開けた場所で空を見上げる

周囲の状況は分かりませんが、雲はやる気を出しつつあるものの、すぐに落雷などの危険を及ぼす雲は見当たりませんでした。

写真3 標高2,000m付近から霧に覆われる

高度を上げていくと、雲の中に入っていきました。谷風によって運ばれた水蒸気が山の斜面に沿って昇っていき、冷やされることでできた雲です。夏の山では日中、標高の低い山や斜面から雲に覆われていき、昼頃からは標高2,500m以上に達することが多くなります。

今回もその典型的なパターンでした。こうなると、空は見えませんので、霧の濃さや風の変化、肌で感じる空気の変化を感じ取るしかありません。ここでは、霧の濃さと風の変化から天候の変化を予想する方法について解説します。 

霧の濃さから天気を判断する方法

1.空を見上げたとき、霧が薄く、明るい感じ。太陽が透けて見える。

2.空を見上げたとき、霧が濃くて暗い感じ。

1の場合、雲が薄いことを示しています。つまり、雲がそこまでやる気になっていない証拠です。雲が薄ければ、雲の中で雨粒が成長できず、雨は降っても霧雨程度。雷を伴った強い雨が降る心配はありません。しかしながら、近くに発達した雲がある場合は、その雲が近づくと天候が急変する可能性があります。

2の場合、雲が厚いことを示しています。いつ雨が降り出してもおかしくない状況です。霧に覆われる前に、周囲で入道雲が発達していることが確認できているときは、落雷のリスクがある場所や沢沿いから離れるようにしましょう。また、携帯がつながる場合は、雨雲レーダーや雷レーダーを確認して周囲に発達した積乱雲(やる気を出した雲)がないか確認しましょう。

風から判断する方法(霧に覆われているとき)

1.それまで吹いていた風が止んだとき

2.風向きが変わるとき

3.それまで無風だったのに風が吹き始めたとき

上記のいずれかの兆候が見られるときは、霧が晴れる可能性があります。逆にこれまで霧に覆われていなかったのに、上記1~3のいずれかの条件が現れたときは、霧に覆われていく可能性があります。風が変化すると、天気も変わっていくことが多いのです。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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