~エクアドルの気象と空partⅡ~
前回に続き、エクアドルで見られた雲についての解説です。
キトからしばらく南下すると、低い雲に覆われてきました(写真1)。層積雲(そうせきうん、別名うね雲)が上空を覆っているためです。
写真1 層積雲に覆われた空
層積雲は、地面から1~2km上空にできる雲で、その高度に冷たい空気が入ることと、地面付近に湿った空気(ジメジメ君)が入ってくることでできる雲です。もう少し詳しく説明すると、
1.地面付近にジメジメ君(partⅠのようにちょいジメ君でも良い)が入ってくる
2.上空1~2kmに冷たい空気が入る
3.水蒸気が冷やされて雲が発生
4.地面付近と上空1~2kmの狭い範囲で温度差が大きくなることで対流が発生
5.上昇気流が起きる所で層積雲ができ、下降気流が起きるところで雲に隙間ができる
今回、なぜジメジメ君が入ってきたかを地図から考えてみましょう。この写真を撮ったのは、図1の中で写真①層積雲と書かれている所です。この場所の東側にはアンデス山脈がありますが、アンティサナという高い山の南側にはあまり高い山がなく、アマゾン側からのジメジメ君が入りやすくなっています。特に、大きな谷に沿ってジメジメ君が入ってくる撮影場所の辺りでは、ジメジメ君が多くなっている場所です。また、盆地のため、ジメジメ君が溜まりやすい場所でもあります。
図1 キト周辺からチンボラッソ付近の地図
さて、車は盆地の西側にあるアンデス山脈に近づきました。すると山の奥の方(西側)に青空が見えてきました。このようなとき、山の奥側は晴れています。
写真2 層積雲に覆われた盆地の向こうに青空が見える。
実際に車が峠を越えると青空が一面に広がりました!
写真3 山を越えて流れ出す雲
写真3は、画像の左側が東の方向、右側が西になります。これをご覧いただくと、東側からの湿った空気が山を越えるときに上昇してできた雲が山の反対側(西側)に流れ出しているのが分かります。ここは山の連なりの中でも低い場所になっているため、山で湿った空気が堰き止められずに流れ出しているのです。
流れ出した雲は下降しながら蒸発していきます。また、右側(西側)の乾いた空気が雲の上を上昇し、左側から流れ出てくる雲を蒸発させています。このため、山の西側では晴れているのです。
この写真を撮影した場所は、図1の写真③と書いてある所です。ここは小さな山脈があり、山の両側での天気の違いが良く分かる場所です。山の西側にあるキトロア湖の上空は見事な青空でした(写真4)。
写真4 青空が広がるキトロア湖
さて、次はいよいよ登山中に見られた雲です。どんだけ待たせんだい(笑)。
コトパクシの登山日は星空が広がる絶好の登頂日和。昼過ぎまでは麓の山小屋でも晴れてました。一方、アマゾン側の山麓では朝からジメジメ君が溜まっていて、それによる雲が出てました(写真5)。
写真5 山頂からアマゾン側の雲海を見下ろす
日中は、次第にアマゾン側からジメジメ君が押し寄せてきました。雲を見るとジメジメ君と乾いた空気との戦いが良く分かりますね(写真6)。
写真6 ジメジメ君とサラサラ君(乾いた空気)との戦い
ただし、この雲は標高5,000m付近の安定した層に阻まれてそれ以上、上昇はできませんでした。そのため、山頂付近では終日、お天気が良かったです。乾季の時期はこのパターンが多いですが、雨季になると大気が不安定となり、安定した層が日中は消失しますので、雲はぐんぐん成長して(やる気を出して)山頂まで覆い、雪を降らせることになります。
午後になると、日射の影響で下流側から上流側へと吹く谷風(たにかぜ)が強まります。このため、谷風(観天望気講座98 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/65ff7031ab34f28cac97b35fe03dff08)に乗ってジメジメ君がアマゾン側から入ってきます。これが、写真6の雲です。そのため、標高4,500m付近の駐車場では、雲に覆われてにわか雨が降りました。
チンボラッソの登山でも似たような天気となりました。朝は快晴、日中はアマゾン側から雲が侵入してきます。この雲は安定層に抑えられて高度が一定なのも同じですね。乾季の典型的な天気変化です。
写真7 アマゾン側から侵入する雲
エクアドルの空は、アンデス側のジメジメ君と太平洋側のサラサラ君の戦いでした。雲がこの戦いをダイナミックに表現しているのを見るのは楽しかったです。
エクアドルの空と山に感謝!グラシアス!!
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。