天気が崩れるときの雲partⅡ
~日本海低気圧、寒冷前線接近時の雲~
低気圧や前線が近づいてくるときには、大きく分けて2つの天気の崩れ方があります。
1.低気圧が南側を通過するとき
2.低気圧が北側を通過するとき
前回は、1.低気圧が南側を通過するとき の状況について学びました。今回は2.低気圧が北側を通過するとき について見ていきます。
図1 低気圧と天気分布(山岳気象大全の図を猪熊が加工したもの)
低気圧が北側を通過するときは、温暖前線が北を素通りして、寒冷前線が通過することが多くなります。そのようなとき、図1のHのような天気変化をします。低気圧がすぐ北側を通過する際には、温暖前線が通過した後、一旦天気が回復して再び寒冷前線が通過します。天気は目まぐるしく変化し、Jのような天気変化をします。
今回は、もっとも多いケースであるHの天気変化について学んでいきましょう。その前に寒冷前線の構造を見ていきましょう。
図2 寒冷前線の構造(山岳気象大全 猪熊隆之著:山と渓谷社より)
図2は、図1のC-D間の断面図です。温暖前線と同様に、寒冷前線も上空に面として延びており、それが地上と接したところを前線と呼びます。寒冷前線は温暖前線と逆に、温かい空気があった所に、冷たい空気が入ってくることで発生します。温かい空気は軽く、冷たい空気は重いので、冷たい空気は温かい空気の下にもぐりこんでいき、温かい空気は強制的に持ち上げられます。
温かい空気が持ち上げられたところで雲は発生します。温暖前線と異なり、緩やかに持ち上げられるのではなく、急激に持ち上げられるので、雲は上方へ発達していき(雲がやる気を出し)、前線付近では積乱雲と呼ばれるもくもくとした雲が形成されます。この雲からは短時間に激しい雨が降ったり、落雷やひょうをもたらすこともあります。したがって、登山においては落雷や沢の増水など気象リスクが大きく、もっとも注意すべき前線のひとつです。
写真1 寒冷前線に伴う雲。冷たい空気が温かい空気にもぐりこんでいき、上昇させられた空気が雲を作る。
寒冷前線が接近するときの典型的な雲の変化は以下の通りです。寒冷前線の場合は、天気変化が早いので、下記の順番通りに進むのではなく、同時に進行することがあります。
① 巻雲(けんうん)→②巻積雲(うろこ雲)、またはレンズ雲→③高層雲(こうそううん=湿った空気が入るとき)または④山にかかる厚い雲(=比較的空気が乾いているとき)→⑤積乱雲(せきらんうん)が遠くに現れる→⑥積乱雲に覆われる
それでは、寒冷前線が接近するときの雲の変化(Hの天気変化)を見ていきましょう。
① 巻雲(けんうん、別名すじ雲)
昇り竜のような巻雲が現れています。雲が毛羽立っているときは、上空の風が強い証拠です。
② レンズ雲
日本海を低気圧が通過するとき(低気圧の南側に入るとき)、凸レンズのような変わった雲が現れます。上空で風が強まっている証拠で、このような雲が現れると、山では強風になります。このレンズ雲が下の写真のように大きくなったり、二重、三重になって吊るし雲(つるし雲)になっていくと、山では荒れた天気になっていきます。
八ヶ岳上空の吊るし雲
③ 高層雲(こうそううん・おぼろ雲)
温かく湿った空気が入ってくるときは、空全体を雲が覆います。このとき、レンズ雲が見られることもあります。湿った空気が入ってこない場合は②から④へと変化します。
④ 山にかかる厚い雲(積雲または層積雲)
山にこのような雲がかかったときは、上空に強い寒気が入っているか、寒冷前線が接近している証拠です。この状態では、既に山は荒れた天気となっています。したがって、山では②の段階で安全地帯に避難しなければなりません。
⑤ 積乱雲(せきらんうん・入道雲)が接近
西の空が真っ黒になっていくときは、要注意。
青空と真っ暗な積乱雲との境界。寒冷前線が接近するときは、天候が急変することが多く、早めの避難が重要。
日本海側の山岳では、日本海の方角から接近する雲に注意。
積乱雲の雲列が接近する福岡市。このような雲が見られたらすぐに安全地帯に避難を。
⑥ 積乱雲に覆われる
なお、寒冷前線が通過した後、太平洋側の山岳では天気が回復しますが、日本海側の山岳では、大荒れの天気になることがあり、注意が必要です。また、前線通過後、一旦天気が回復してから大荒れの天気になることもあります。そのようなとき、④のような雲が山にかかるので、覚えておきましょう。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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