~笠雲(かさぐも)~
今回は、先日、八ヶ岳で見られた笠雲(かさぐも)についてお話ししたいと思います。
笠雲は、山頂付近を覆う笠の形をした雲で、レンズ雲の一種です。レンズ雲はこの観天望気講座でもたびたび取り上げられていますが、山岳波(さんがくは)によってできる雲です。山岳波は、山の地形によって空気が波を起こす現象です。下図のイラストのように、山にぶつかった風が山の斜面を乗り越えることで波を起こし、それが下流側に伝わっていくとともに、安定した層があると、上空にも伝わっていきます。
図1 笠雲やレンズ雲ができる仕組み
この波のうち、山の斜面で上昇した空気が作る雲が笠雲です。笠雲は、富士山や利尻山など独立峰で発生しやすい現象ですが、八ヶ岳など連なった山でもできることがあります。
写真1 赤岳にできた笠雲
写真2 湿った空気の流れを現す雲
写真2を見ると、写真の左手前(北西側)から雲の帯が山頂に向かって延びていることが分かります。この雲は湿った空気が流れ込んでできたもので、それが画面中に見える中岳(黒い三角形の山)から奥の赤岳にかけての尾根で上昇することによって、笠雲の形になっています(写真1、2)。それにしても、このときの雲の流れはダイナミックなものでした。この湿った空気はこの後、さらに強まって阿弥陀岳の山頂も覆いましたが(写真3)、10分程度で消えてなくなり、笠雲もそれに伴って消えていきました(写真4)。
写真3 霧に覆われた阿弥陀岳山頂
写真4 湿った空気が弱まって雲から姿を現した赤岳
図2 笠雲が現れた時間帯の天気図(ヤマテンの専門天気図より)
今回の笠雲は、一時的に湿った空気が入ってできたものですが、それが何によるものなのか、天気図から見ていきましょう。図2は、笠雲が現れた時間の数値予報の地上気圧配置と降水予想図です。気象庁など4hPaごとに等圧線が書かれている天気図からでは、この湿った空気が何によるものかを解析することができませんが、ヤマテンの2hPaごとの天気図だと、佐渡島付近にある低気圧から延びる弱い谷(赤い破線部分)があるのが分かります。この谷で風が収束し、上昇気流が起きたことと、谷に沿って湿った空気が多くなったことが今回の笠雲ができた原因です。
「笠雲ができると雨」ということわざがあります。笠雲は風がある程度強くなり、湿った空気が上空に入ってくるときにできるので、低気圧が日本海を進んでいくとき現れることが多いからです。ただし、今回のように一時的に湿った空気が入ったときや、低気圧が通過した後、湿った空気や強風が残っているときにできることもあります。そのようなときは、天気の崩れに影響しないことが多いです。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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