~エクアドルの気象と空partⅠ~
先日、エクアドルで登山する機会がありました。今回は、そのとき見られた雲についての解説です。
Ⅰ.エクアドルの場所
エクアドルといってもどこにあるか分からない方もいらっしゃると思うのでまずは場所から。エクアドルはスペイン語で「赤道」を意味する言葉。その名のごとく、赤道直下の国です。南アメリカ大陸の北部に位置し、太平洋に面しています。つまり、日本とは太平洋でつながっているんです!
図1 エクアドルの位置
Ⅱ.エクアドルの気候
赤道直下の国だから「さぞ暑いのだろう。」と思いますが、首都キトではそんなことはありません。国の中央をアンデス山脈が南北に走っているので、エクアドルはひとつの国土に、熱帯から寒帯までの気候を持つ、変化に富んだ国です。それでは、エクアドルの気候区分を見ていきましょう。
図2 エクアドルの気候区分
1.常春の温帯地域
エクアドルの中央を2本のアンデス山脈が走っています。その間は標高2,000m以上の高原地帯になっており、インカ帝国が栄えた地域でもあります。このエリアには、首都のキトやアンバトなど主要都市も多く存在しています。赤道直下にありながらも標高が高いので、常に春のような気候です。年間を通じて気温の変化は少ないものの、朝晩と日中の気温差は大きく、雨季と乾季もはっきりと分かれています。北に行くほど乾季の期間が短い湿潤な気候で、南に行くほど乾季の期間が長く、乾燥していきます。アンデス山脈の中に火山が数多くあり、標高4,000mを越える地点はもっとも温かい月でも10℃以下となる高山気候やツンドラ気候となり、標高5,000mを越えると氷河が出てきます。
2.暑くて湿潤なアマゾン地域
アンデス山脈の東側は、年間を通じて気温が高く、雨量も多い熱帯湿潤気候です。背の高い、熱帯雨林のジャyングルに覆われています。未開地域もあり、少数民族が居住しています。昔ながらの伝統や習慣を守っている部族もいます。今回の解説で、沢山出てくる「ジメジメ君」の故郷です。
3.太平洋沿岸地域
太平洋の沿岸部は年間を通じて気温が高く、雨季と乾季がはっきりと分かれるサバナ気候です。北に行くほど乾季が短く湿潤で南に行くほど乾季が長く、乾燥していきます。これは、北部にいくほど暖流のパナマ海流の影響を受ける期間が長く、南部ほど寒流のペルー海流の影響を受ける期間が長いからです。パナマ海流は暖流で暖かい海流のため、海水からの蒸発量が多く、雲ができやすいのに対し、ペルー海流は南極から運ばれてきた寒流であるため、赤道に近くても水温は低く、海面近くが冷やされて高気圧ができやすいことや、蒸発する水蒸気量が少ないので、雲ができにくくなります(図3参照)。
図3 海流が気象に与える影響
Ⅲ.エクアドルで見られた雲
さて、それではいよいよ登山中や移動中に見られた雲の解説です。私が行動した範囲は、常春の温暖地域と、アンデスの山岳地帯でした。赤道直下にあるエクアドルは、基本的に偏東風(貿易風)と呼ばれる、東風が吹いています。コロンブスはこの風に乗ってアメリカ大陸を発見しました。私がエクアドルに滞在した期間中、この東風が強まる期間と弱まる期間があり、それが天気に大きく影響しました。
また、アマゾン地域は年間を通じて暖かく湿った空気に覆われており、水蒸気量が多い地域です。そのため、東風が吹くと、アマゾン側からの湿った空気(ジメジメ君)が入ってきます。東風が強まると、ジメジメ君が勢いを増して天気が崩れ、弱まるときにはジメジメ君の元気がなくなり、天気が良くなることが多かったです。その辺りを写真で見ていきましょう。
1.弱い西風だった日の雲
この日は、珍しく東風ではなく、弱い西風が太平洋側から吹いてくる日でした。このため、アンデス山脈の間の常春地域では、西側の山に遮られて風が弱く、東からの湿った空気の入りにくいため、朝から良く晴れました。いつもは東側の山から雲に覆われることが多いのですが、この日は西側の山に雲が出ていました。
写真1 ゴンドラの乗り場から西方の山を見る(一番高い山はカヤンベ)
上の写真は、西の空を見たものですが、西側の山並みに添うように雲が出ていることが分かります。山の向こう側(西側)には太平洋があり、海から入ってきたやや湿った空気が、山にぶつかって上昇することでできた雲ですね。ただし、太平洋は前述の通り、寒流が流れていることもあって水蒸気量が少なく、湿っていると言ってもアマゾン側にある「ジメジメ君」ほどではないので、「ちょいジメ君」とでも呼びましょう。
写真2 ビチンチャ山の中腹から南西側を見た空
ゴンドラに乗って標高3,950mの山頂駅に到着。尾根道を登っていくと、それまで見られなかった雲が出てきました(写真2)。晴れた日に良く見られる積雲(せきうん、別名わたぐも)です。この雲は、次のようにできます。
1.山の斜面が日射で温められる
2.温まった斜面に接している空気も温められる
3.温まった空気は周囲の空気より軽くなるので、上昇する
4.上昇した空気が冷やされて雲ができる
したがって、周囲より温まりやすい場所の上でこの雲はできやすくなります。斜面の向きと太陽光線の位置関係が重要です。
さて、しばらく歩を進めていくと、空の様子が変わってきました。ひとつひとつの雲の塊が大きくなってきたのです。このように雲の塊が大きくなったものを層積雲(そうせきうん、別名うね雲)と呼びます。
写真3 積雲が層積雲に変わってきた空
積雲と層積雲の見分け方はちょっと難しいですが、このように雲の塊が大きくなってきたのは、上空に少し冷たい空気が入って、広い範囲で上昇気流が起き始めたことによります。
さて、ルク・ピチンチャの山頂に到着する頃は、午後1時を過ぎており、アマゾン側にも濃密な雲が広がっていました(写真4)。
写真4 アマゾン側の雲海
上の写真は、ビエンチャの山頂から南東側を見たもので、写真の奥がアマゾン側になります。アマゾン側では水蒸気が多く、ジメジメ君の存在が分かりますね。
それよりも鳥の方が気になりますよね。これはマダラコシジロカラカラという舌をかみそうな、長い名前の鳥です。エクアドルとコロンビアのアンデス山脈に生息する猛禽類です。
さて、次回はこのジメジメ君がやってきたときの雲をお伝えします。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。