2016/06/27 08:00 upload
雲から山の天気を学ぼう(第5回)
今回は、普段は低いところにありながら、成長すると、上層雲と同じくらい高いところまでぐんぐん背が伸びていく雲、対流雲(たいりゅううん)について学びます。
Ⅰ.対流雲
対流雲は積雲(せきうん)と積乱雲(せきらんうん)の2種類ですが、積雲が成長したものを雄大積雲(ゆうだいせきうん)として分けることもあります。雄大積雲と積乱雲の区別は難しいので、あまり厳密に考えなくて良いでしょう。
a)積雲(わた雲)
下の写真で見られるすじ状の雲は、既に学んだ巻雲です。塊状の雲が積雲です。青空によく浮かんでいる、綿のような雲のことを積雲と言います。空気は暖まると軽くなるので、南斜面や盆地など周囲より暖まった場所では、軽くなった空気が上昇していきます。そこで発生する雲が積雲です。この雲の下では局所的に上昇気流が起きているので、パラグライダーで高度を上げるときは、この雲の下に入ります。
b)雄大積雲(入道雲)
積雲が発達したものが雄大積雲です。大気が安定しているときは、積雲は成長できませんが、不安定な状態のときは、上へ上へと成長していき、ソフトクリームのような雲になります。また、雲の底が灰色になっていきます。このような雲が雄大積雲です。
c)積乱雲(発達した入道雲)
雄大積雲が発達すると、積乱雲になります。大雨(雪)や落雷、突風を引き起こす、登山者にとって最も怖い雲です。雄大積雲との見分け方は難しいですが、雲の上部が氷点下の高さに達して水滴ではなく、氷晶(氷の粒)で形成されるようになると、積乱雲と呼ばれます。縦長の雲で雲底(雲の底)は数百㍍程度ですが、発達すると雲頂(雲のてっぺん)は10km以上に達します。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。
今回は、最近、八ヶ岳~入笠山山麓で発生した積乱雲についてです。
積乱雲は発達した入道雲のことで、落雷や局地豪雨、雹、突風などをもたらす、登山者にとってもっとも危険な雲。
積乱雲は、雲がやる気を出して成長したときにできます。雲がやる気を出す条件は観天望気講座77をご参照ください(下記URL)。
http://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/d8d91a3876370b0670790c4b3b078e43
積乱雲ができるための条件は
1.上昇気流が起きる(自分の力だけで上昇できる高さまで上昇することが必要)
2.雲がやる気を出す(大気が不安定で雲が上方へどんどん成長)
3.水蒸気を多く含んだ空気が入る(水蒸気がなければそもそも雲ができない)
です。1については、谷風が山の斜面を昇っていったり、風が山にぶつかって上昇したり、低気圧や前線に伴う上昇気流があったり、色々ありますが、収束によって上昇気流が起きることも重要です。
写真1 収束によってできる雄大積雲(積雲がやる気を出して成長したもの。積乱雲ほどは発達していない雲)
上の写真を見ていただくと、真っ黒な雲が画面の中央にあります。雄大積雲が発達しつつあるところです。ここで、どうして上昇気流が起きたかというと、写真に書かれているように、左右から風が吹いてきて、雲の下で収束したためです。風は両側から吹いてくると、衝突を避けて上昇していきます。
写真2 写真1の数十分後。収束域が変化して雲の発生域が移動する。
上の写真は、写真1の数十分後のものです。雲が発生しているエリアが右奥から左方向に移動しています。これは右側から吹いている風が強くなって、収束するエリアが変化しているためです。
写真3 発達した積乱雲の近くで生まれる子雲
また、積乱雲が発達すると、その近くで新たな雲(子雲)が発生することがあります。上の写真を見ていただくと、写真の右下の方にひときわ暗い雲があり、この下では強い雨が降っています。これは発達した積乱雲がここにあることを示しており、積乱雲からの雨で空気が引きずり降ろされて下降気流が起きています。降水が蒸発する際の冷却効果で重くなった空気は地面に衝突し、周囲に吹き出していきます。このときは、写真を撮影したヤマテン事務所でもひやっとした強い風が積乱雲の方角から吹いてきました。この風が周囲の温かく湿った空気とぶつかると、そこで上昇気流が生まれ、新たな子雲が生まれるのです。このように、積乱雲は移動するだけでなく、新たな雲を生み出し、そこで突然、落雷や強い雨が降ることがあり、注意が必要です。
※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。
写真、文責:猪熊隆之