ご無沙汰してます。久しぶりの観天望気講座です。今日は7月3日に行われた「山の天気ハイキング in 会津朝日岳」の際に見られた雲と、気象判断についてお伝えします。
この日は、梅雨前線上をキンク(前線が折れ曲がったところ)が能登半島の北から新潟付近へと東進していき、会津朝日岳はその南側に入りました。たびたびお伝えしていますが、キンクの周辺や南側では積乱雲が発達しやすく、局地豪雨や大雨に警戒が必要ですし、前線の南側では西風が強まることが多くなります。したがって、キンクが通過する予想の昼前後を中心に荒れた天気となることが予想されました。
そこで迷うのが登山を催行するかどうかの判断。今回のルートで予想されるリスクは、前半の沢の渡渉と、山頂直下の急峻な岩場、そして頂上稜線の風です。沢が増水してしまうと、帰りに渡れなくなる可能性がありますが、もっとも発達した積乱雲はもう少し北側の飯豊連峰付近にかかり、会津朝日ではそこまでの大雨にはならないこと、ブナを始めとする自然林の保水力の高さ、流域の沢の形状などから決行することにしました。あとは、稜線に出てからの強風ですが、これは避難小屋でそのときの風雨の状況などから判断することにしました。
つまり、引き返しポイントはひとつは沢の渡渉地点、それから避難小屋、そして稜線の直下ということになります。
さて、出発した後は携帯が通じないので雨雲レーダーの確認はできません。雨雲レーダーを出発前に確認したところ、登山開始前後に、にわか雨が降った後は一旦、小康状態となる感じであった。また、その後の梅雨前線の動きや暖湿流の入り具合から、キンクが通過する10時頃から本降りの雨となり、13時頃まで続きそうだと想定しました。
あとは、観天望気です。
出発時、予想通り、にわか雨となり、雨具を着るが、やがて止み、すぐに脱ぐ。沢は今年は雪解けが異常に早かったため、渇水状態で流れはほとんどない。ただし、このような沢が短時間の豪雨で姿を全く変えてしまうことを過去に何度も見ているから油断はできません。
その後は小康状態で薄日が差す時間も。このとき、お客様から「猪熊さん、本当にこの後、降るの?意外と持つんじゃない。」という声もありました。しかしながら尾根上に上がると、北側に梅雨前線本体の活発な積乱雲群が見てとれます(上の写真)。
しかも、その後、積乱雲群はゆっくりと接近(南下)してきました。さらに雲海の上部が盛り上がってきて、雲が上方に毛羽立ったようになってきました。これは上昇気流が強まってきている証拠で、天気が崩れる前兆です。
案の上、9時頃から雨が降り始め、10時頃には本降りに。土砂降りの中、避難小屋へ。ここが最大の引き返しポイントとなります。調子の悪いお客様にはここで待っていただくことにしました。さらに山頂直下の岩壁の下へ。脇を増水した沢がゴウゴウと流れており、雨の勢いは弱まりません。ここであまり歩き慣れていないお客様にはガイド1名をつけて引き返していただくことに。やむを得ない判断です。残りのメンバーはガイドとお客様の比率が1:2とガイドがお客様が滑落したときに備えて登ります。全員、無事難所を通過。さて、最後の引き返しポイントは稜線。稜線では風が音を立てて唸っているものの、幸いルートが稜線の風下側で、大きな灌木も所々あるので思ったよりも弱かったので、特にバランスを崩す方もいらっしゃいませんでした。引き返したメンバー以外は全員無事登頂し、下山。
私自身も引き返しポイントなど、お天気の勉強になったツアーでした。
※図:気象庁提供
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写真、文責:猪熊隆之