![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/93/a5ebba921d0ecf893376d0e46d962337.jpg)
そのヒントのひとつが、12月に東京ビッグサイトで開かれたエコプロダクト展のシンポジウムにあった。 気仙沼で牡蠣の養殖をしている漁師の畠山重篤さんの話がそれだ。20年前から、「森は海の恋人」という植林運動をやっていて、豊かな海には、そこに流れ込む水が鉄(Fe)を豊富に含んでいると知って、気仙沼に流れ込む川の上流の植林を始めた。 既に著書も多いし結構メディアにも取り上げられていて有名な方だ(見逃したが、今月NHKのプロフェッショナルの流儀でも登場。)
今回の講演でもメモを見ずに、20分間熱心に語られたところは、最新刊の「鉄は魔法使い」に詳しく書かれている。 畠山さんは親の代から気仙沼で牡蠣養殖を営んでいるが、地元の水産高校在学時分から、色々と生き物のことを勉強し、北大や京大などの学者と積極的に交流する中で、「森林に降った雨が豊富な鉄分を含んだ地下水となって川から海に流れ込み、それが湾内の植物性プランクトンを増やして海の生態系を豊かにする」ということを知った。 魚資源が豊富であるには、まず活発に光合成をする物性プランクトンが大量に必要で、光合成には鉄が不可欠である。海では鉄はすぐに酸化して沈んでしまうから、絶えず山(森)から、地中の鉄を含んだ「フルボ酸鉄」が豊富に供給されることが、牡蠣や魚類の豊かな海の必須条件だという。
畠山さんが独創的なのは、海の命を育む「鉄」の重要性という科学的知見を、牡蠣養殖と植林運動につなげて「森は海の恋人」運動を展開していることだ。 風貌はユニークだが、知的好奇心旺盛な勉強家である。 三陸沖が世界に冠たる漁場であるのは、窒素やリンの扶養分を多量に含む深層水である親潮が、アムール川で運ばれるシベリアの森林由来のフルボ酸鉄を豊富に含んだ地下水と東サハリン沖で出会うことで、豊かなプランクトンを生じるためだと紹介している。 話は壮大だが、決して法螺ではなく、科学的に証明されているらしい。 アメリカの学者が、鉄が不足しているガラパゴス諸島の沖合いに鉄を撒いたところ、海一面にプランクトンが湧いて緑色になったという。 森林(広葉樹)がしっかりして、雨を保水し地下水が豊富にあることで地中の鉄が溶けこむ。 このように、豊かな森と豊かな海は切っても切れない関係にあることが、わかったのはこの20~30年の研究によるらしい。
では、なぜ海水には鉄が不足するかというと、鉄はすぐに酸素と結びついて酸化鉄なって沈んでしまうからだ。 オーストラリア西部のシャーク湾の縞状鉄鉱石や露天掘りの巨大鉄鉱石鉱山は、30数億年前にこの作用によって出来たそうだ。 地球の全重量の3分の1は鉄だといわれるが、人間の体に酸素を運び、二酸化炭素を回収するヘモグロビンには鉄が含まれているし、鉄はこれらの元素と結びつきやすい。
CO2の排出が温暖化要因として問題視されているが、鉄さえ豊富にあれば、クロロフィルが活発な光合成をしてCO2を吸収し、植物が繁茂して食料や燃料になるのだから、そんなに問題はない。森への植林は樹木のCO2吸収だけでなく、海の植物性プランクトンによる莫大な吸収と繁茂をもたらす、というのが畠山さんだ。
畠山さんは、自身の気仙沼の水山養殖場の再生を目指して「復興オーナーズ、サポーターズ」プログラムを立ち上げている(http://mizuyama-oyster-farm.com/index.html)。 一口1万円で、やがて牡蠣養殖が復興した際には、産地直送の牡蠣とホタテが食べられるそうだ。