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コウノトリの舞う里と生物多様性

2010-08-07 | 環境
人間が化石燃料を手にし、機械化によって食料の生産能力を飛躍的に増大させ、人口は過去200年で10億人から60億人に急増した。 BRICsやアフリカなどで今も増え続ける人口とエネルギー需要。 地球上のすべての人が、今の先進国並みの食料とエネルギーを必要とすれば、完全に地球の自然と資源は枯渇する。 太陽光など自然エネルギーの開発が需要においつけるのかは未知数のままだ。  「ガイア」理論を提唱したイギリスの科学者J. ラブロックによれば、これは完全にガイア(気候や生態系の自己調節機構を持つ地球)が維持できる能力を超えているという。 もはや「持続可能な成長」でなく「持続可能な撤退」を探らないといけない、というわけだ。

近年、地球温暖ガスの問題に並ぶほど欧州で注目を浴びているのが、「生物多様性」の保全の問題である。 地球上には、170万種ともいわれる様々な植物や動物が存在するが、毎日100種とも300種とも言われる数の生物が絶滅しているという。 今年は、国連生物多様性年であり、秋に名古屋でCOP10の国際会議が行われる。 

なぜ、生物多様性の維持が重要なのか。 多様な種が存在するということは、彼らが住む豊かな自然環境があることを意味する。 光合成によって二酸化炭素を吸収して炭素化合物を生成する藻や植物があり、それを食べる草食動物、その上には、それらを捕食する肉食動物がいる。 たとえば、日本では絶滅したコウノトリは、どじょうや蛙などを捕食する湿原でのピラミッドの頂点に立つが、彼らが生きるには、そうした蛙などが生存する冬でも水が枯れない田んぼや湿地、里山が必要になる。 

もちろん人間は地球全体の生態系の頂点に立って(立ったつもりで)、植物も家畜もすべて捕食している。 山林を伐採し、農地を開墾して食料を大量生産する。 たんぱく質を得るために、家畜を放牧し、その飼料を栽培するために、その放牧地の数百倍のもの土地を耕作する。 地球の森林の35%が既に農業用に開墾されているという。 J. ラブロックによれば、人間はCombustion (化石燃料の燃焼)、Cattle (家畜)、Chainsaw (森林伐採)の「3つのC」を制約しない限り、温暖化や気候変動でガイアに不可逆的なダメージを与え、人間は滅亡に向かうというわけである。 


先月29日、津田ホールで開かれた(財)日本生態系協会(http://www.ecosys.or.jp/eco-japan/)のセミナーで、VWドイツ本社の環境責任者がゲスト講演したのだが、その他にも色々と興味深い話を聞くことができた。リオの地球サミットが開かれた92年に設立された同協会の池谷会長は、本職は獣医だそうだが、人間が自然破壊と炭素ゴミの排出をとめない限り、生物多様性は危機に瀕し、そのピラミッドの下部構造がもろくなれば、人間自体が存続てきないと警鐘を鳴らした。  同協会は、有志の地方自治体の首長や学校と組んで、各地で生物多様性に関する教育やビオトープの生成などを支援している。 今回のセミナーでも、関東の一円でのコウノトリの再生を目指す野田市や、天然ブナ林の北限である北海道黒松内町、荒川河畔の湿地帯の再現を目指す埼玉県戸田市など、6つの自治体の首長が講演した。 

最も感動的だったのは、兵庫県豊岡市の湿原で1971年を最後に日本の空から消えたコウノトリを20年以上かけて人口孵化させ、ついに野生に戻した中貝市長の講演だった。 なぜ豊岡市民はそこまでして、コウノトリの舞う空と田んぼを取り戻そうとしたのか。 それは「いのちへの共感」であるという。 子供たちとコウノトリが一緒に住む里を取り戻したいという思いが、それを実現させた。http://www.city.toyooka.lg.jp/kounotorimonogatari/index-new.htm
(こうのとり野生復帰の紹介、をクリックするとスライドショーになります。)
  
豊岡市は人口8万人強で、兵庫県日本海側の中核都市だ。 海にも面し、城之崎温泉も近い。 そして今は、コウノトリの住む田んぼで作った無農薬の「コウノトリ育むお米」が、2倍近い値段なのに売れ行き好調という。 観光ももちろん盛んで、中貝市長は、環境と経済は両立すると言い切る。

講演では、他にもツシマヤマネコの保存と、対馬近海の海洋資源の育成を主張している(マスコミ出身という)若い対馬市長が「人間は縄文時代に帰るくらいのつもりでないとダメ」と述べたし、利根川近郊の首長と計って関東にコウノトリを呼び戻したいという野田市長は、(いかにも政治家らしい風貌であったが)「最近は、道路を作るより、環境を良くすると言うほうが票になる」と言って、会場から笑いを誘った。

日本生態系協会のスタッフは、みなさん自然に関心を持ち、生物多様性の維持に向けて、勉強と教育に真剣に取り組んでいる人ばかりであった。 同協会が出版している「にほんのいきもの暦」(写真)は、24節気に分けて日本に住む懐かしい植物や虫や鳥たちを写真を交えて紹介している。 ちょうど大暑から立秋に移る今日だが、この本に紹介されている七星てんとうだとか、ごまだらかみきり、カブトムシを都会の日常で見ることは稀であり、蝶や鳥も少ない。 かろうじて、蝉の声は耳にするが。  

東京は、世界的に見ても緑の少ない大都市で、コンクリートとアスファルトに埋め尽くされている。 そこには、虫や鳥たちが住む環境はない。 それを復活させるには、飛び地になっている公園などを繋いで、「緑と水のネットワーク」を形成することが必要だという。 つまり緑のベルトを作ることが生物の移動を可能にし、周辺のより豊かな自然との交流を可能にする。 たとえば、ドイツなどでは、高速道路で分断された野原をつなぐべくアウトバーンに橋を架け始めている。  

生物多様性という言葉は、まだ日本人にとってあまり馴染みのないものかもしれない。 しかし、生き物と自然への共感、と捕らえるとき、それはすんなりと頭に入ってくるのではないだろうか。 生産活動をする企業も、お題目でなく環境維持と自然との共存なしには、存続はできない時代になったと最近強く感じる。

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