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ヒラリーの土壇場のカムバックについて

2008-03-10 | バラクオバマと米大統領選
今回のヒラリーの奇跡的なカムバックについては、3/17号のTIMEが特集を組んでいる。笑顔のヒラリーがカバーの見出しは、「The Fighter – How she came back and why it could be too late」。  ヒラリーは、このブログでも取り上げたテキサスのディベートでは、穏やかでオバマに友情の握手を求めた良い人だったのに、その後豹変して、「Shame on you, Barack Obama」と吠え、なりふり構わぬ「戦い」に打って出たのだった。オバマへの怒りをぶちまけたのは、ヒラリーのヘルスケア政策が「国民皆保険で貧しい人に負担を強いる」とオバマ陣営が選挙パンフレットに書いたことが原因らしいが、終盤にいたってヒラリーは、ライフワークであるヘルスケア問題に執拗にこだわり、選挙直前のオハイオの討論会では、16分間の討議ののち、話題を変えようとした司会者のジャーナリストを「これ以上大切な問題はない」遮って、討議の継続を要求したのだった。 

背水の陣のヒラリー陣営は、さらにいわゆる個人の資質(character)の攻撃と怪しげなスキャンダルの暴露戦略にも出た。 オバマが2005年にシカゴ郊外に1億5千万円で購入した自宅に関して、疑惑捜査中の不動産ディベロッパーと取引していたとか、NAFTAに関する側近のメモのリークの類がそれであるし、例の深夜3時の子供の安眠を脅かす電話のCMで、国家安全保障の緊急時に経験のないオバマでは心配だと暗示するのもネガティブキャンペーンの最たるものだろう。 ヒラリー側は、いわゆる泥仕合(throw the kitchen sink)を展開したのだが、TIMEの記事は、怒ったり弱音を吐いたりしたことで、エリート然とした彼女の仮面の下の生の人間的なものが現れて、一般市民が初めて、ヒラリーを身近でリアルなものに感じたことが、今回の逆転の最大の理由だとしている。

ヒラリーがヘルスケアという個別の問題にあくまで拘り、シンプルで分かりやすかったのに比べ、オバマの常に冷静で知的な物腰は、切迫感が薄く弱く見えたようだ。 彼の理性的でバランス感覚に優れるという美徳が、このような壮烈な選挙戦では、逆にリスクになりかねないとTIMEは指摘している。 彼が、単なるもう一人の政治家(another politician)に堕してしまわないためには、もう一皮向けて、人間としての迫力を見せる必要があるというのだ。 

記事は、ヒラリーが今から逆転するのは数字的には難しいとしながら、彼女が夫のビルの影響下から完全に自立して、戦う女性政治家として確固たる存在感を打ち立てたことは、今後に残るとしている。 スーパーチューズデーの敗北以降、元大統領の姿はTV画面から消えている。ヒラリーは一人で戦い、土壇場で現れ出た鬼気迫る迫力が有権者を動かしたのだった。 しかし、これで彼女はすべてのカードを切った。 ヘルスケア政策でオバマとヒラリーの違いはわずかであり、安全保障問題でヒラリーがオバマより優れた司令官であるという実績はどこにもなく、彼女の「午前3時の電話」のCMの根拠は薄弱だ。 おそらく、ワイオミングに続く各州でオバマがは勝利を重ね、オハイオと同様に製造業の不況に苦しみ労組の影響の強い4/22の最後の大票田ペンシルベニアに戦いは持ち込まれる。 もしここでまた3/4の劇が繰り返されれば、選挙戦は延々夏までもつれ込む可能性がある。 個人の資質やスキャンダルの穿りあい、kitchen sinkの投げ合いになれば、折角世界的にも注目を浴びている今回の選挙戦への幻滅が広がる可能性もある。 そうならないためにも、オバマはこれまで人々を熱狂させてきた言葉とレトリックを超えて、もう一歩踏み込んで自らが大統領に臨む理由と、公約のポイントを(FDRのように100日以内に実現することでもいい)、市民と再確認する必要があるだろう。 ヒラリー側のネガティブキャンペーンと、オバマの言葉がすれ違うだけのキャンペーンになれば、求心力は失われる。 オバマはヒラリーの攻撃に応戦しながら、彼女の弱点を突く反撃も必要になってくるかもしれない。 冷静なオバマは、既に反論を開始しているようだし、彼はこの選挙戦が世界の注目を浴びていることをひしひしと感じているだろうから、大局観を持って大統領候補の切符を手にすると信じている。
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