18分のスピーチの間、媚びた言葉や美辞麗句はもちろん、一年間に渡って人々を熱狂させてきたスローガン(Yes, we can)も一度も発せられなかった。 代わりに強調されたのは、正直や勤勉、寛容や勇気といった建国以来の美徳であり、他人や社会への「責任ある行動の時代」(new era of responsibility)の招聘であった。 感涙するような高揚感を期待していた向きには、少し拍子抜けといっていいかもしれぬほど、冷静で落ち着いた話しぶりだった。決定的なワンフレーズはついに登場しなかった。むしろ敢えてそうした安易な興奮から、聴衆を引き離そうとしていたかのように。
改めて今回のスピーチを文字でたどり、声に出して読み上げてみると、一語として空虚な言葉はなく、すべての文章が意味を持ち、各段落は精密に組み立てられていることがわかる。 これから始める「合衆国再生」という困難な事業の試練と重責を、新大統領と市民一人ひとりが分かち合う必要性を、本気で国民と共有するために、このスピーチは書かれ、語られた。
「アメリカの凋落は避けられない、子供たちの世代は目標を下げざるを得ない」といった「怖れ」よりも、「希望」と「変革」を我々は共に選択した。そしてアメリカの再生(remaking of America)が、今日ここに始まったのだ、とオバマは宣言する(We gather because we have chosen hope over fear, unity of purpose over conflict and discord … The time has come to reaffirm our enduring spirit, to choose our better history.)
さらに中盤では、経済政策や福祉、教育、外交といった政治的アジェンダにも触れる。
‐ 市場経済の是非は問うまでもない、経済は富と幸福をもたらすことが出来る。私達は、その富を一部の人が占有するのではなく、多くの人と分かちあわなければならない。
‐ 一国の「安全」と世界平和という「理想」を天秤にかけるのではなく、アメリカは他国の友人であり、平和を追求する努力を辛抱強く続けることを、世界にもう一度示さなければならない。We are ready to lead once more であると。
そして、ムスリム世界へは(To the Muslim world, we seek…)、互恵と相互信頼に基づいた関係を目指すと語りかけ、発展途上国へは、貧困と戦い衛生的な社会の実現を助けると約束する。
終盤では、再びアメリカ国民に、市民たることの責任と約束(price and the promise of Citizenship)の意識を呼び覚まし、人間の尊厳と誇りは、そうした義務を遂行することの悦びから生じる。 それこそが「自由」であり「幸福」な人間なのだ、とオバマは人権と民主主義の理念に立ち返る。
最後は、独立戦争の一場面を思い起こさせる挿話が挟まれて締めくくられた。
「建国以来200数十年間、過酷な労働に耐えてフロンティア開拓を進め、激烈な南北戦争を経て国を統一し、差別を廃して公民権を確立し、幾多の困難を克服して私達の先祖は今日の繁栄を築いてきた。今こそ、思い起こそう。 陥落した首都フィラデルフィアから迫ってくる宗主国の軍隊に追われ、凍てつく冬の河のほとりで消えかかった焚き火を囲みながら、「独立」が最大の危機に瀕していたそのとき、『希望と美徳(hope and virtue)』」を唯一の武器として戦いぬき、ついには勝利した合衆国の先祖達を。 それと同じ寒い冬のこの日、黒人として初めて第44代の大統領になった私は、私を選んだ市民の皆さんとともに、アメリカを再生することを、今まさに誓いあったのだ。」
オバマは、カントのような哲学者ではないし、ドストエフスキーのような大小説家でもないが、彼が言葉によって、様々な地域、異なった人種や階層の人々の間に共通の理解と感動をもたらし、勇敢に希望する力(audacity of Hope)を創出しえたことは、大袈裟に言えば、人間の歴史における一つの勝利といえるのかもしれない。
改めて今回のスピーチを文字でたどり、声に出して読み上げてみると、一語として空虚な言葉はなく、すべての文章が意味を持ち、各段落は精密に組み立てられていることがわかる。 これから始める「合衆国再生」という困難な事業の試練と重責を、新大統領と市民一人ひとりが分かち合う必要性を、本気で国民と共有するために、このスピーチは書かれ、語られた。
「アメリカの凋落は避けられない、子供たちの世代は目標を下げざるを得ない」といった「怖れ」よりも、「希望」と「変革」を我々は共に選択した。そしてアメリカの再生(remaking of America)が、今日ここに始まったのだ、とオバマは宣言する(We gather because we have chosen hope over fear, unity of purpose over conflict and discord … The time has come to reaffirm our enduring spirit, to choose our better history.)
さらに中盤では、経済政策や福祉、教育、外交といった政治的アジェンダにも触れる。
‐ 市場経済の是非は問うまでもない、経済は富と幸福をもたらすことが出来る。私達は、その富を一部の人が占有するのではなく、多くの人と分かちあわなければならない。
‐ 一国の「安全」と世界平和という「理想」を天秤にかけるのではなく、アメリカは他国の友人であり、平和を追求する努力を辛抱強く続けることを、世界にもう一度示さなければならない。We are ready to lead once more であると。
そして、ムスリム世界へは(To the Muslim world, we seek…)、互恵と相互信頼に基づいた関係を目指すと語りかけ、発展途上国へは、貧困と戦い衛生的な社会の実現を助けると約束する。
終盤では、再びアメリカ国民に、市民たることの責任と約束(price and the promise of Citizenship)の意識を呼び覚まし、人間の尊厳と誇りは、そうした義務を遂行することの悦びから生じる。 それこそが「自由」であり「幸福」な人間なのだ、とオバマは人権と民主主義の理念に立ち返る。
最後は、独立戦争の一場面を思い起こさせる挿話が挟まれて締めくくられた。
「建国以来200数十年間、過酷な労働に耐えてフロンティア開拓を進め、激烈な南北戦争を経て国を統一し、差別を廃して公民権を確立し、幾多の困難を克服して私達の先祖は今日の繁栄を築いてきた。今こそ、思い起こそう。 陥落した首都フィラデルフィアから迫ってくる宗主国の軍隊に追われ、凍てつく冬の河のほとりで消えかかった焚き火を囲みながら、「独立」が最大の危機に瀕していたそのとき、『希望と美徳(hope and virtue)』」を唯一の武器として戦いぬき、ついには勝利した合衆国の先祖達を。 それと同じ寒い冬のこの日、黒人として初めて第44代の大統領になった私は、私を選んだ市民の皆さんとともに、アメリカを再生することを、今まさに誓いあったのだ。」
オバマは、カントのような哲学者ではないし、ドストエフスキーのような大小説家でもないが、彼が言葉によって、様々な地域、異なった人種や階層の人々の間に共通の理解と感動をもたらし、勇敢に希望する力(audacity of Hope)を創出しえたことは、大袈裟に言えば、人間の歴史における一つの勝利といえるのかもしれない。
おっしゃるとおり、オバマがイスラエルのガザ空爆に関してほとんど発言をしなかったことが、一部で批判的に報道されていました。イスラエルは、オバマに配慮してか就任式までに停戦に持っていきましたね。オバマとユダヤとの関係がどの程度深いものなのかわかりませんが、パレスチナ問題は困難であることは歴史が示しています。
アフガニスタンに増派すると言っているますが、どこまで本気に介入するのかまだわかりません。ベトナム化するだけだと言っている学者をTいましたが、いずれにしても、アメリカの限界をわきまえた上での、現実的な対応を取っていくのではないかと思います。