前著「人々はなぜ、、、」は、2007年の春出版であり、実質的に2006年に書かれているから、その時点では、まだサブプライムローン問題は表面化していない。著者は、アメリカの住宅市場が相当のバブルであり、いずれ調整が必至となると予告はしているが、今回のような住宅バブルの破裂と金融危機の到来までを警告していたわけではない。 今回の新書の前半は、まずアメリカ金融帝国の成立と崩壊の経緯を解説しているが、それは半ば前著の内容のわかりやすい要約といっていい。 17世紀の東インド会社の設立以来続いてきた「資本」と「国家」と「国民」が三位一体となって成長するという「大きな物語」が、1968年のフランスの5月革命やプラハの春といった社会革命、70年代のドルショックや石油危機をもって終焉し、その後、資本が「国家」の枠組みを超えて世界をグローバルに動き回る時代が到来。資本の利益率の低下に伴い労働分配率が一貫して下がり続け、労働者の黄金時代は終わって資本の「反革命」というべき状況が成立していった、という点は前著に詳しい。さらに1995年以降、強いドル政策により、アメリカ金融帝国が完成されてゆき、世界から集まった資金は、アメリカ住宅バブルを引き起こし、それがついに今回破裂したというわけだ。
著者は、本書の第二章「危機の震源、サブプライムローン問題とは何か」の中で、グリーンスパン元FRB議長が、リーマンショック直前の今年7月に現在は「100年の一度の危機」と述べたことに関し、元議長にはこの発言をして欲しくなかった、と感想を述べている。 本来FRBの独立性は、パーティが最高潮のときに「さあお開きですよ」と言ってパンチボールのトレイを下げることだ、というW.マーティン元FRB議長(在任期間1951年~70年)の言葉があるそうだが、グリーンスパンは、バブルの膨張に気づきながらも、結局資本の立場で行動し住宅バブルにブレーキをかけなかったことを、著者は批判しているのだ。 今回の金融大崩壊で、世界総資産180兆ドルを有する金融資本は20兆ドル以上の資産を失ったが、それでも95年から100兆ドル以上の金融資産が増えており、資本は本当には痛んでいない、一番の被害者は中産階級になる夢を砕かれた「国民」である、と著者は言う。
本書の後半は、「世界はいつ不況から脱出できるのか(第4章)」といった読者が今本当に知りたいことについての予見を述べている。 下落しているとはいえ、まだ適性値より30%以上高いアメリカの実質住宅価格の調整(下落)は、これから3年は続き、1兆ドル相当と試算される米住宅債務を解消するには、アメリカ国民は、これから消費を抑えて所得を返済に回さねばならず、ざっと5年近くもマイナス成長が続くというのである。 これが現実とすると大変厳しい話しだ。 95年から一貫して高いドル政策で世界中からお金を集めてきていた「アメリカ投資銀行株式会社」は、今回初めて取り付け騒ぎにあっており、今後オバマ政権の経済対策などで、国債の増発が行われ、財政赤字が益々増大するとの観測からドル安が進み、景気の回復には5年以上かかるというのが著者の見立てである。
そして「アメリカ投資銀行株式会社」の連結子会社である「日本輸出株式会社」も、全く同様の大打撃を受けるという。 戦後最長といわれても「実感がない」といわれた日本の直近の景気拡大は、大企業の輸出と円安に支えられていたから、アメリカ市場とそのアメリカの工場と化した中国やASEANへの輸出で儲けてきた日本も影響は甚大となる。アメリカは今回の世界不況脱出の牽引者には成りえないとすれば、中産階級の所得の伸びが期待できるアジアの新興国などに投資して利益を稼がざるを得ないという。
金融資本主義の崩壊により、資本は先進国よりもより高い利潤を生む新興国に向かい、それらの国の実体経済の発展が今後の世界経済のエンジンとなっていく。 今後20年で、途上国の経済は先進国の経済規模に追いつき年間GDPが60兆ドル規模に達する。 つまり先進国と合わせて120兆ドルの規模となり、現時点で180兆ドルにまで膨れ上がった世界の金融経済と実態経済のインバランスは、徐々に是正されていくと著者は予測する。 こうしたBRICsなど新興市場に向かうにあたり、日本の競争力は決して強くない。本来なら戦後60年間で蓄積した1500兆円の個人金融資産を元手に、金融資本主義の全盛の下で欧米のようにこれを倍増できたはずなのに、それができなかった。 世界の金融資産の増加分は、過去10年に一京円を越えているのに、日本の増加分は300兆円足らずである。潤沢な資金を下に、海外企業の買収をするなどの余力はあまりないのだ。 日本企業は、成長率と利潤率の極めて低い日本国内だけで商売をしているのでは淘汰され、今後は中小企業であっても、海外との取引を持つことが成長の条件になる。 また、資源を持たない日本は、原油や原材料の高騰による交易損失を減らすべきであり、その意味で円高は国益になる、等々。
最後に著者は、今の日本政府が年金、社会保障、教育を立て直し、社会的セーフティネットをしっかりして、人々の不安を取り除くこと、さらに中小企業が海外に出て行ける金銭的、人的サポートと技術優位の確立が大事だとしている。 人口減少社会を迎えた日本の「大きな物語」は既に終わっており、旧来の「大企業型日本輸出株式会社」の仕組みだけでは、今後待ち受けている試練と競争に勝てないというわけである。
本書を読んでここまで理解すれば、もう分析はいらない。後は行動あるのみだという気がする。2009年、日本の政治が、社会が、次の時代に向けて真の変革を開始することが求められる。
著者は、本書の第二章「危機の震源、サブプライムローン問題とは何か」の中で、グリーンスパン元FRB議長が、リーマンショック直前の今年7月に現在は「100年の一度の危機」と述べたことに関し、元議長にはこの発言をして欲しくなかった、と感想を述べている。 本来FRBの独立性は、パーティが最高潮のときに「さあお開きですよ」と言ってパンチボールのトレイを下げることだ、というW.マーティン元FRB議長(在任期間1951年~70年)の言葉があるそうだが、グリーンスパンは、バブルの膨張に気づきながらも、結局資本の立場で行動し住宅バブルにブレーキをかけなかったことを、著者は批判しているのだ。 今回の金融大崩壊で、世界総資産180兆ドルを有する金融資本は20兆ドル以上の資産を失ったが、それでも95年から100兆ドル以上の金融資産が増えており、資本は本当には痛んでいない、一番の被害者は中産階級になる夢を砕かれた「国民」である、と著者は言う。
本書の後半は、「世界はいつ不況から脱出できるのか(第4章)」といった読者が今本当に知りたいことについての予見を述べている。 下落しているとはいえ、まだ適性値より30%以上高いアメリカの実質住宅価格の調整(下落)は、これから3年は続き、1兆ドル相当と試算される米住宅債務を解消するには、アメリカ国民は、これから消費を抑えて所得を返済に回さねばならず、ざっと5年近くもマイナス成長が続くというのである。 これが現実とすると大変厳しい話しだ。 95年から一貫して高いドル政策で世界中からお金を集めてきていた「アメリカ投資銀行株式会社」は、今回初めて取り付け騒ぎにあっており、今後オバマ政権の経済対策などで、国債の増発が行われ、財政赤字が益々増大するとの観測からドル安が進み、景気の回復には5年以上かかるというのが著者の見立てである。
そして「アメリカ投資銀行株式会社」の連結子会社である「日本輸出株式会社」も、全く同様の大打撃を受けるという。 戦後最長といわれても「実感がない」といわれた日本の直近の景気拡大は、大企業の輸出と円安に支えられていたから、アメリカ市場とそのアメリカの工場と化した中国やASEANへの輸出で儲けてきた日本も影響は甚大となる。アメリカは今回の世界不況脱出の牽引者には成りえないとすれば、中産階級の所得の伸びが期待できるアジアの新興国などに投資して利益を稼がざるを得ないという。
金融資本主義の崩壊により、資本は先進国よりもより高い利潤を生む新興国に向かい、それらの国の実体経済の発展が今後の世界経済のエンジンとなっていく。 今後20年で、途上国の経済は先進国の経済規模に追いつき年間GDPが60兆ドル規模に達する。 つまり先進国と合わせて120兆ドルの規模となり、現時点で180兆ドルにまで膨れ上がった世界の金融経済と実態経済のインバランスは、徐々に是正されていくと著者は予測する。 こうしたBRICsなど新興市場に向かうにあたり、日本の競争力は決して強くない。本来なら戦後60年間で蓄積した1500兆円の個人金融資産を元手に、金融資本主義の全盛の下で欧米のようにこれを倍増できたはずなのに、それができなかった。 世界の金融資産の増加分は、過去10年に一京円を越えているのに、日本の増加分は300兆円足らずである。潤沢な資金を下に、海外企業の買収をするなどの余力はあまりないのだ。 日本企業は、成長率と利潤率の極めて低い日本国内だけで商売をしているのでは淘汰され、今後は中小企業であっても、海外との取引を持つことが成長の条件になる。 また、資源を持たない日本は、原油や原材料の高騰による交易損失を減らすべきであり、その意味で円高は国益になる、等々。
最後に著者は、今の日本政府が年金、社会保障、教育を立て直し、社会的セーフティネットをしっかりして、人々の不安を取り除くこと、さらに中小企業が海外に出て行ける金銭的、人的サポートと技術優位の確立が大事だとしている。 人口減少社会を迎えた日本の「大きな物語」は既に終わっており、旧来の「大企業型日本輸出株式会社」の仕組みだけでは、今後待ち受けている試練と競争に勝てないというわけである。
本書を読んでここまで理解すれば、もう分析はいらない。後は行動あるのみだという気がする。2009年、日本の政治が、社会が、次の時代に向けて真の変革を開始することが求められる。