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どうなる、瀕死のGM?

2008-11-15 | GMと米自動車危機
スペインのバレンシアでは、日産工場の従業員削減に対し抗議デモが繰り広げられている。 ビッグ3に納入の多い日本のサプライヤーも北米の工場閉鎖を余儀なくされている所がある。 北米と欧州の経済の減速が顕著だが、影響は中国を含むアジアにも及び、また原油や資源価格の急落で、潤っていた資源国マネーも停滞している。 信用の収縮と経済や雇用への不安が、連鎖的に消費の停滞と企業業績の悪化を引き起こしている。 株安や金融機関の資金繰りは、主要国の金融対策でひとまず小康状態を保っているが、ここでビッグ3の破綻などが起これば、事態は急激に悪化するだろう。 

GM、フォード、クライスラーのトップは先週下院のぺロシ議長に面会、またオバマ次期大統領もブッシュ大統領に会い、Big3への可及的速やかな支援を要請した。 ポールソン財務大臣は、将来の生存可能性(viability)がなければ、政府の救済は意味がないとコメントしたが、それではAIGはどうして救済したのか、という声が上がっている。 

アメリカ市民の中には、特定の企業を税金で救済すべきでない、という意見も根強い。しかし、Big3にとって今の状況は、いわば恐竜を絶滅させた隕石の衝突ほどの衝撃である。昨年夏の住宅ローンの破綻以降事態は悪化し、赤字決算が続いていたが、今年の第二、第三四半期の売り上げは20-30%も減少している。こんなペースで売り上げが落ちれば、固定費の高い自動車産業は大赤字になり、運転資金が逼迫する。GM、フォード、クライスラーの3社で24万人の直接雇用があり、部品メーカーやディーラー、その他の関連産業を含めると300万人の雇用があるともいわれ、それが今危機に瀕している。

もしGMが破綻すれば、その影響は心理的にも甚大であろう。 欧州のGM子会社オペルの業績も悪化し、ドイツ政府に支援を求めている。GMが連邦破産法chapter 11を申請すれば良いとの意見もあるが、Automotive News の編集局長Peter Brown は、15日付のコラムで、これはあり得ない選択肢だと論じている。破綻した会社のクルマなど誰も買わなくなる、Chapter11はすなわち会社精算(Chapter7)に直結すると。確かにその通りかもしれない。 年間850万台の販売し、売上高20兆円の巨大企業の破産は、巨大なTsunamiとなって、世界に伝播するだろう。 フォード、クライスラーが連鎖倒産し、アメリカの製造業の中核が消失するという近代の産業史が経験したことのないパニックが起こりうる。

Peter Brownは、”The cost of GM’s Death” と題したコラムを、こう締めくくった。“Absent a bailout, GM dies, and with it much of manufacturing in America. Congress needs to do the right thing, now.”

GMは第3四半期の決算発表に伴い、キャッシュフローが来年前半に枯渇する危険性を表明し、政府の融資を求めている。 ホームページには、Myths and Factsと題し、その切迫した流動性の危機を押し隠すことなく訴えている。 

かつて50年代、GMとビッグ3が隆盛を極めたころ(1953年)、GMの社長から、アイゼンハワーに国防長官への就任を依頼されたウィルソン・(エンジン)・チャーリーは、召喚された上院の公聴会で、「GMに良いことはアメリカに良いことであり、その逆も正です。GMは非常に大きいので常に国益と一致するのです」と言ったことは語り草になっている。 今やそのGMが瀕死の危機にある。 もちろん、北米の大型車の収益に依存しすぎ、小型車で利益の出る構造を達成できなかったとか、色々な非難はあろう。 しかし、正にGMこそはToo Big to Failだ。 金融機関には、公的資金が注入されるのに、その金融のバブルのあおりを食った製造業には、融資できないというのはやはり公平ではあるまい。特に300万人の雇用がかかっているとすれば。

かつて「腐ってもGM」という言葉が良く聞かれた。 GMはアメリカを代表する企業であり、資本主義のアメリカの象徴的存在でもある。 その経営の透明性やアカウンタビリティ、組織論やプロセスエンジニアリング、オープンで寛大で民主的なカルチャーは正にアメリカの精神を体現している。 日本人が崇拝する経営の神様、かのピータードラッカーも、40年代にアルフレッドスローンの君臨するGMに2年ほど研修のために滞在し、“Concept of Corporation”という処女作を書いた。 企業の社会的存在意義まで解き明かした書として、今でも読むに値する名著だ。 

そのGMが瀕死の危機に直面している。 大型車の全く売れなくなったアメリカでは、大胆な資産の圧縮と事業の再編を余儀なくされるだろう。 中国やブラジルなど新興国では、日本メーカーを尻目に大胆な展開でトップクラスのシェアを誇るが、今後はグローバルブランドは、キャデラックとシボレーがあれば事足り、オペルは欧州、サターンは北米のリージョナルブランドとして残るが、ポンティアックやビュイックは最早不要だろう。

GMは、そのステートメント中で、2009年のUS市場を1170万台、2010年を1270万台と非常に厳しく見ており、原油価格は、それぞれ60-80ドル、100-120ドルとの予想を表明している。また、2兆円以上の運転資金の緊急融資を国会議員に要請した渉外担当の副社長の手紙も公開している。 ここまでおおっぴらに危機を表明するのは前代未聞だ。ここで死ぬわけには行かない、という必死の声が聞こえてくる。

オバマのアメリカ政府は、とりあえずBIG3に緊急融資するだろうが、その資金も巨大なGMの輸血には短期間しか持たない。 2009年にさらに深刻な全世界的な自動車不況が予測される中で、GMのリストラのスピードが追いつくかどうか不安は残る。 GMのブランドは既に北米では神通力を失っている。 欧州のオペルも大衆ブランドであり、ここ何年もの間、赤字かブレークイーブンすれすれである。 中国やブラジルでは、トップを争うブランドではあるが、それもアメリカとドルの世界的な地盤沈下の中で、今後保てる保障はない。  

今回のGMの凋落は、アメリカの凋落と同期している。 アメリカ発のITやインターネット企業が世界で覇権を握る一方、コストが高く市場の飽和した先進国では、20世紀型の製造業は、淘汰が避けられない場面に直面している。 市場は急に回復しないとなれば、北米の赤字を削減すべく大ナタを振るって大リストラしない限り、GMの再生はあり得ない。しかしGMは、その現実の厳しさと取るべき必要な手段を知ってはいるとは思う。それだけの知力を持つ経営者と100年に渡る企業の歴史がある会社であり、再生は可能だと筆者は信じている。


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