偽造ドル札の話は現実の問題としてあるようだし、北朝鮮による新型偽ドル札「ウルトラダラー」の製造犯の追跡を主軸に展開される話しは本当の話のようだ。 そこに日本人拉致事件が絡んだり、2002年の小泉首相訪朝以来、拉致被害者の日本帰国に関して実際に日本政府側の主役であった外務省の田中審議官を髣髴とさせる人物が登場するなど、ドキュメンタリーに近い小説である(著者もどこかでそう言っていた。) 物語は、アメリカ国務省、イギリス、パリ、ウクライナ、中国など、世界を舞台に繰り広げられる諜報をもとに展開されるが、著者のジャーナリストとしての豊富な知識と経験により、実際の外交や諜報の現場にいるような臨場感がある。 もちろんフィクションだから、ちゃんと物語には結末もあるし、偽札追跡の主人公となるBBCラジオの日本駐在員スティーブンが、バイリンガルで頭が良く、日本文化に造詣が深くて、女性に大もてで、実はイギリスの秘密諜報員でジェームズ・ボンドのような大活躍をするのは痛快だ。 核ミサイルの運搬を取り押さえる下りなど、ハードボイルドタッチのエンターテインメントとしても十分楽しめる内容になっている。 (ところで、エンディングでは、愛する女性を京都の山奥に一人救出に向かったこのスティーブン君、死んだのか生きているのか、はっきりしないのだが。)
それにしても、手嶋氏は、これから小説家になるのか、外交評論家になるのか、これだけ話しがリアルだと、両立は難しいような気がするのだが。
それにしても、手嶋氏は、これから小説家になるのか、外交評論家になるのか、これだけ話しがリアルだと、両立は難しいような気がするのだが。