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「改革はどこへ行った?-民主党政権にチャンスはあるか」竹中平蔵著

2009-12-27 | 読書(政治、経済、社会, 科学)
政権発足から100日を経過したが、普天間基地移転問題の迷走、核持込密約の開示、首相の政治資金問題、天皇と中国習副主席の会見強行など、政権はあちこちに火がついた状態で、支持率も50%を切る世論調査も出てきた。小沢幹事長が天皇表敬問題で、記者を恫喝する会見があり、鳩山首相が母親から12億円も政治資金を贈与されていたことを知らなかったと弁明し、マニフェスト公約が大部分実行されない予算を見ても、まだ国民からは鳩山辞任の声は高まっていない。 ひとつには、民主党が駄目でも代えるに代えられないからだが、亀井大臣に予算で、福島社民党に普天間で足を引っ張られる連立政権を見て、早くも週刊誌では、自民党の舛添グループと民主の改革派が春にも合流、新政党の設立を噂するものまで出始めた。 

当面世間にとって1番の心配は、景気いくえや雇用であり、デフレだろう。 
民主党政権には、マクロ経済政策、成長戦略がないという批判を受けて、30日にそれが発表されるはずで、「環境」を軸に産業振興と需要喚起を図るということになるようだが、それだけでは日本の経済の大きな起爆剤にはならない、という見方が早くも出ている。

さて、「百年に一度の危機」への対策を口実に、官から民への「ヘルプ政策」ばかりが先行し、民主党政権が、政府の肥大と増税国家への道を歩んでいることを危惧しているのが小泉改革のキーマンだった竹中平蔵だ。 企業や経済の競争力を高める改革や規制緩和などいわゆる「サプライサイド」の政策は、安倍、麻生政権で止まってしまい、企業業績が低迷し雇用が失われる中で、「新自由主義者=小泉・竹中のやった路線は間違いだった」というメディアの風潮が支配的だ。 一時はあれほど誉めそやしておいたことをすっかり忘れたかのような豹変ぶりも驚きだが、10月末に上梓された本書で竹中氏自身が、それは決して正しい事実認識ではないと熱く語っている。小泉総理に乞われ、5年近くを経済金融担当大臣、総務大臣として金融改革や郵政改革に奮闘した当事者の分析と危機感は説得力を持つが、その声に果たしてどのほど耳が傾けられているだろうか。 

改革の本丸と位置づけられた郵政民営化は、今や宙ぶらりんになり半国有に逆戻りしそうだ。  医療改革も、後期高齢者医療制度や被保険者の負担の増加(2割から3割)などが、弱者の切り捨てと一方的に非難されたが、医療費の一般会計支出は、2000年の17兆円から、2009年には25兆円にまで増えており、要するに高齢化で増加の一途を辿る医療費に少しでも歯止めをかける必要があった、といった実態はどこまで国民に理解されていただろうか。 この辺りは、当時の政府の説明不足とメディアの報道の仕方にも問題があるだろうが、格差問題にしても、格差の指標である「ジニ係数」は、90年代から一貫して高まっており、その主因は所得のない高齢者が増えていることにある、といった事実はほとんど知られていない。

竹中氏は、日本は「政策後進国」であるという。 経済がグローバル化し、IT革命が進展した今、かつての経済成長期とは比べ物にならないくらい諸政策は難しくなっている。 バブル後の不良債権の処理に10年以上かかった日本は、他国に遅れをとってしまった。 90年代の初めに200兆円程度だった日本の財政赤字は、今や国だけで800兆円に迫り、GDP比でも先進国内で突出している。 これまでは、1500兆円といわれる個人資産で国債を買って凌いで来れたが、今後毎年40兆円の赤字が累積すれば、「もう10年はとうてい持たない」と著者は警告する。

確かに、日本人には、究極の競争社会はそぐわないところがあるし、ほんの2~30年前までは一億総中流といわれていたわけだから、格差が拡大し雇用も年金も崩壊しそうな今の状況は、耐え難いものがある。 しかし一方で、本書の言うとおり、かつて経済大国だった日本は、世界の急激な変化についていかないかぎり、老齢化、低成長低所得、生活水準の低下という負の連鎖に陥る危機に瀕しているといえる。経済成長なくして高福祉政策を続ければ、増税と更なる経済の停滞を招く。

本書は、民間から政権の中枢に飛び込み、自らも一度は選挙の洗礼を受けて政治家として戦った竹中氏の生身の経験が詰まった、中々読み応えのある本になっている。 日本は底力があるからこそ今まで持ってきたが、さすがにもう待ったなしだ。 今こそ、大胆なリーダーシップの下に、本当に有効な政策が作れるチームを集めて、制度改革を行っていかないといけない、という声にウソや誇張はない。 「ポリシーウオッチャー」としての役割を果たそうという竹中氏は、既に「残された希望は政界再編」と見ているのだ。

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