ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『スリー・モンキーズ』を観て

2015年09月15日 | 2000年代映画(外国)
7月の平日、カンヌ映画祭のパルムドールを受賞した『雪の轍』(ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督、2014年)を観に行こうと予定して、
ネットでその日の上映時刻をチェックし、ついでにレビューも読んでみた。
そしたら、会話主体の3時間を超える映画でしんどい、退屈という意見がチラホラあった。
ああ、そうか。長時間、会話ばかりではつらいかもしれないなと、結局行くのをやめてしまった。

しかし、パルムドールを受賞する程だから、どんな作品を創る監督かなと気になって、今回『スリー・モンキーズ』(2008年)を借りて来た。

夜道でひき逃げ事故を起こした政治家のセルヴェトは、事故の発覚で政治生命を絶たれるのを恐れ、部下の運転手エユップに身代わりを頼んだ。
毎月の給料と出所後に謝礼を払ってくれるという条件で、エユップは入獄した。
大学受験に失敗した息子のイスマイルは、車で託児所の送迎をやりたいから、セルヴェトから謝礼を前借りして車を買ってくれと、母ハジェルに暗にせがむ。
ハジェルは夫に内緒でセルヴェトに会い、謝礼の一部を渡すという約束を取り付ける。
ある日、イスマイルは偶然に、家で母とセルヴェトの情事を見てしまい・・・・

事の起こりは、自分が車をねだったためと思うイスマイル。
イスマイルの以前からの憂鬱が増幅される。
ハジェルは、セルヴェトとの関係を出所した夫に決して言わない。イスマイルも言わない。
エユップも、その事を疑いながらも深く聞かず、とことん追及しない。
そして最後に三人は、このことに関連した事件の真相に対し、見て見ぬふりをする。
というか、お互いを思いやって、闇に葬り去ろうとする。
ここに至って、バラバラな家族が本来の姿に成りかける。
しかし、罪を背負った家族の行く末はどのような形で進むのだろうか。

暗めのメリハリのきいた画調が、エユップ家の三人の心境を表す。
必要最低限の会話。
それぞれの顔の表情から本人の心理を捉える描写。
その心理から次の行動を予測させる展開。
しかし、観る側の私の予測と、実際にとる行動にずれが生じる。
へぇ、そのように映画を創るのかと感心し、私はもう夢中である。
そして、この監督が好きになってしまった。
ラストの黒い雲の間から雷鳴がとどろくシーンなんかは、正しく絵画そのものである。
素晴らしい作品であった。

このような作品を創る監督なら、『雪の轍』も観ておけばよかったと後悔が先にたつ。
作品に対する感想は人によって違うし、そもそも作品の見方や求めるものがそれぞれ違っていたりする。
だから、レビューもいろいろだなと思った。

トルコの映画は久しぶりで、『路』(1982年)のユルマズ・ギュネイ以来となるから、このジェイラン監督がとても興味深い。
次回は、『昔々、アナトリアで』(2011年)を観ようと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする