ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

グラウベル・ローシャ・1~『黒い神と白い悪魔』

2021年02月21日 | 1960年代映画(外国)
『黒い神と白い悪魔』(グラウベル・ローシャ監督、1964年)を再度観た。

民衆が虐げられていた大地主制度下のブラジル。
貧しい牛飼いのマヌエルは、妻のローザと老母の三人で細々と暮らしている。
ある日、彼が地主の所へ牛運びの金をもらいに行った折、ひどい仕打ちを受けて地主を殺してしまう。
追手により老母を殺されたマヌエルはローザを連れて山へ逃れ、山中で大勢の信者を従える聖セバスチャンの教えに共感する。

やがてセバスチャンは、信者と共に地主や政府軍と戦うようになる。
それに対し地主たちは殺し屋のアントニオ・ダス・モルテスを雇い討伐に向かわせる。

そんなある日、折から現れたダス・モルテスは信者たちを皆殺しにし、片や、赤ん坊を信仰の犠牲にされたローザは聖セバスチャンを刺し殺す。
ダス・モルテスから見逃されたマヌエルとローザは、コリスコ大尉が率いる義賊カンガセイロに出会い、それに加わる。
だがダス・モルテスに狙われたコリスコは決闘の末、殺されてしまう。
マヌエルはこの決闘でローザと逃げるが、途中、息切れて動けないローザをそのままにどこまでも走り続ける・・・
(MOVIE WALKER PRESSを修正)

貧民のマヌエルは、黒人で山の聖人セバスチャンの教えによって、いずれ、約束の土地である島の統治者になる希望をもつ。
そしてセバスチャンの死後、荒野を行くマヌエルとローザは、カンガセイロのコリスコ大尉らに出会う。

カンガセイロとは、19世紀末からブラジル北東部で活動した盗賊の総称である。
彼らは、農村社会からの逃亡者が団を編成、武装して無差別に農村部を略奪した。
しかし、中には大土地所有者をも標的とした者がおり、それが、農奴同然の生活を送る農場労働者から義賊として扱われるようになった。
(Wikipediaより)

本来匪賊であるカンガセイロが、義賊とされて民間伝承となっていく。
その民間伝承・フォークロアの物語を、ローシャは歌詞に乗せて歌わせ、乾いた映像として表現していく。
実在したコリスコも登場させ、有名なランピオンも妻マリア・ボニータと一緒に3日前に殺されたと、1938年の時代としての背景を流す。

マヌエルが考える約束の土地、そのようなものはやはり幻想だったのか。
内容は寓話的であっても、この作品は強力なメッセージを隠している。

1950年代後半にフランスで新しい波“ヌーヴェルヴァーグ”が起こったように、ブラジルでも同じように“シネマ・ノーヴォ”が起きる。
その指導、代表者がグラウベル・ローシャ(1938年-1981年)である。
この作品は、背景を何も知らずに単なる他国映画として観た場合、面白くも何ともないとも思う。
しかし、少しその背景を知って観ると、つい知らず知らずにのめり込んで観てしまう。
大袈裟にいうと、麻薬と一緒で中毒症状になる。

今回、ローシャのDVD-boxを購入したので、次回は、これも随分と前に観た姉妹編『アントニオ・ダス・モルテス』(1969年)を再確認しようと思う。
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