ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『エレニの帰郷』を観て

2015年09月07日 | 2000年代映画(外国)
ギリシャの監督テオ・アンゲロプロスの『旅芸人の記録』(1975年)を封切りで観て、その独特な長回し撮影の映画作りに強烈なインパクトを受けた。
それ以後、『狩人』(1977年)から『エレニの旅』(2004年)まで、同監督の作品が上映されるたびに欠かさずに観た。
映画館での鑑賞に拘った理由は、あの静かに流れる時間の中にどっぷりと浸っていたかったからである。

しかし、2012年1月25日の当日新聞で、アンゲロプロスが映画撮影中に交通事故で亡くなったと知り、
この偉大な監督による作品がこれ以後観えなくなるかと、非常に残念な思いがした。
それと共に、映画界にとっての損失も多大なものがあると思うと、何とも言えない淋しさがあった。
だから、それ以降に同監督の作品はないと思い込み、この『エレニの帰郷』(2008年)が昨年上映されたことは見逃していた。
テレビ場面で観るのは残念な気もするが、しかし背に腹は変えられず、今回レンタルビデオを借りてきて観た。

ローマのチネチッタ撮影所で、映画監督(エレニの息子)は中断した映画を、ラストシーンが決まれば撮影を再開しようとしている。
そこへ、家に寄り付かなくなった娘から電話が掛かって来たが、しゃべらずに無音のままであった。
焦った監督は家に帰り、ベットの枕の下から母の昔の手紙を見つけた。
それは1956年12月、恋人スピロスに向かって書いた、シベリアでの母の手紙であった・・・・

時は遡って、1953年4月27日。
雪が降り積もった野原を一両の市電が行く。
続いて、人々がゆっくりと一方向に歩いて行く。
それを長回しで捉えるキャメラ。
正しく、アンゲロプロスの映像が存在している。

歴史に翻弄されるエレニとスピロス。
そして、エレニに付き添いながら、秘かに彼女を想うドイツ系ユダヤ人のヤコブ。
帰郷の希望を持ちながら、未だ果たせないエレニにとって、帰郷とは何だったのか。
帰郷先のイスラエルへの想いを見失ったヤコブ。
エレニとスピロスに別れを告げる、そのヤコブの運命が切ない。
それと対照的に、ラストの雪の降るシーンが何とも言えないほど美しい。
スピロスと孫のエレニがこちら側に走って来る。
動乱の20世紀が終わって、新しい世紀への希望のかけらが見えてくる。

雪は、すべての死者と生者に。過去に降り、現在に降り、宇宙に降る。

この作品は、語りと会話によって時代背景を説明し、現在と過去が交叉する。
それに例の独特な、過去と現在をそのまま繋ぐマジック的なシーンも2、3箇所あったりする。
スピロス自身の顔も、中盤辺りのベルリンの空港に着いてからしかわからない。
そればかりか、エレニの孫もまたエレニだったりする。
そのため、少々分かりづらい印象も残る。

なので、私はもう一度観直してみた。
一度観て、分かり易いのが良い映画なのか、二度観て、深く分かってくる方が良質なのかはよくわからないが、
この作品は、アンゲロプロスの遺作だったという想いと共に、今後、私の記憶に残って行くことだろう。

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