ポケットの中で映画を温めて

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『みかんの丘』を観て

2017年08月06日 | 2010年代映画(外国)
前回の『とうもろこしの島』(ギオルギ・オヴァシュヴィリ監督、2014年)の関連で、『みかんの丘』(ザザ・ウルシャゼ監督、2013年)を借りてきた。

舞台は、ジョージア(グルジア)のアブハジア自治共和国で、みかん栽培をするエストニア人の集落。
ジョージアとアブハジア間に紛争が勃発し、多くのエストニア人は祖国に帰ったが、老人イヴォとマルゴスだけが残っている。
マルゴスはみかんの収穫が気になるからだが、みかんの木箱作りのイヴォは理由を語らない。

ある日、近くで戦闘があり、イヴォは、負傷したふたりの兵士を家に運び介抱する。
一人は、アブハジアを支援するチェチェン兵のアハメド。
もう一人は、ジョージア兵ニカで、二人は敵同士だった・・・
(オフィシャルサイトより修正)

アブハジア紛争。
1991年、ソビエト連邦が崩壊し、その一共和国だったジョージア(グルジア)が独立する。
1992年、アブハジアの統合を主張するジョージアの民族主義者に反発し、アブハジア自治政府が独立を宣言。
それを端緒に、両者の間で激しい戦闘が繰り広げられる。

この紛争を背景に、エストニア人の老人に隣人、負傷したチェチェン人とジョージア人がひとつ屋根の下でドラマを繰り広げる。
そこにあるのは、民族の対立。
しかし本来、敵意をむき出しにするチェチェン人とジョージア人は、個人的にはなんら知らない間柄のはずである。
その二人がいがみ合い、究極的には相手を殺していいと思う。
映画は、戦争の虚しさを、この紛争の影響をもろに受けるエストニア人を絡めて、自然のみかん畑と生活の中に鋭く問う。

これを観終わった感想は、近年まれに見る傑作である、としか言いようがない内容であった。
しかし、去年の秋に上映されたらしいこの作品について、恥かしながら何の情報も知らなかった。

なぜだろうと思い、2016年キネマ旬報ベスト・テンを調べてみた。
そうすると、洋画部門の41位。選者72名中で評価している人はわずか5名。
その中で、佐藤忠男氏と西脇英夫氏は高評価していて、納得する。

このような作品が、時と共に埋もれていけば、それは残念であるばかりではなく、芸術作品の損失ではないか、と大袈裟に考える。
いずれにしても、映画の評論家を自負する人は、もう少し自覚を持ってもらわないといけないではないか、とこの作品を観て思った。

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