ポケットの中で映画を温めて

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『英雄の証明』を観て

2022年04月09日 | 2020年代映画(外国)
上映中の『英雄の証明』(アスガー・ファルハディ監督、2021年)を観てきた。

イランの古都シラーズ。
ラヒムは借金の罪で投獄され、服役している。そんなある時、婚約者が偶然17枚の金貨を拾う。
借金を返済すればその日にでも出所できるラヒムにとって、それはまさに神からの贈り物のように思えた。
しかし、罪悪感にさいなまれたラヒムは、金貨を落とし主に返すことを決意する。
そのささやかな善行がメディアに報じられると大きな反響を呼び、ラヒムは「正直者の囚人」という美談とともに祭り上げられていく。
ところが、SNSを介して広まったある噂をきっかけに、状況は一変。
罪のない吃音症の幼い息子をも巻き込んだ、大きな事件へと発展していく・・・
(映画.comより)

冒頭、刑務所から2日間の休暇を貰ったラヒムは、遺跡修復作業に従事している義兄ホセインを訪ねる。
姉マリとホセインの夫婦の家に、ラヒムの前妻との子シアヴァシュも住んでいて、ラヒムはここに落ち着く。

看板書きのラヒムの服役理由は、一緒に事業を起こそうとした相方に資金を持ち逃げされ、保証人の元妻の兄バーラムから返済を求められているが約束を果たせないでいるためである。
婚約者ファルコンデと会ったラヒムは、彼女が金貨が入ったバックを拾ったことを知り、これで借金を返せば刑務所から出所できると考える。
しかし、貴金属店で見積もってもらうと借金の返済額には足らない。
そのこともあって、ラヒムは良心の呵責も芽生え、落とし主にバックを返そうと考える。

と、このように話は展開していき、ラヒムの善行はテレビ局にも取り上げられる。
特別休暇を貰ったラヒムは、チャリティー協会のイベントにも駆り出され時の人となる。
しかし、現在のSNSの世界は、そのような善行にも容赦しない。
彼は騙している、そのような情報が出て、実際に自分が拾った訳でもないラヒムにも弱点が現われる。
善行の栄光から突き落とされたラヒムは、これは借金元のバーラムの仕業だと思い込む。
そして、名誉を賭けたラヒムの状況は最悪の事態へと突き進んでいく。

この作品は、傍目には何気ないように見えても、そこには緻密な物語の展開が絡んでいて、そのスリリングさは飽きが来ないばかりか目が離せない。
そして、その内容に横たわっているのは、現代における個人に対するややもするとソーシャルメディアの得体の知れなさ、不気味さであり、普遍的に身近にある事柄である。

現在における超一級監督ファルハディの最新作品、その提示する内容は分かりやすいうえに凄い、傑作だと言わずにおれない。
と、このように言っても『彼女が消えた浜辺』(2009)、『誰もがそれを知っている』(2018)のDVDは棚に眠ったままなので是非、近々観てみたいと思っている。

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