ポケットの中で映画を温めて

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『The NET 網に囚われた男』を観て

2017年03月14日 | 2010年代映画(外国)
キム・ギドク監督の最新作『The NET 網に囚われた男』(2016年)を観た。

北朝鮮の寒村で漁師ナム・チョルは、妻と子と共に貧しくも平穏な日々を送っていた。
ある朝、チョルは唯一の財産である小さなモーターボートで漁に出るが、魚網がエンジンに絡まりボートが故障してしまう。
意に反して韓国側に流されたチョルは韓国の警察に拘束され、身に覚えのないスパイ容疑で、執拗で残忍な尋問を受ける。
一方、チョルの監視役に就いた青年警護官オ・ジヌは、チョルの家族の元に帰りたいという切実な思いに触れ、次第に彼の潔白を信じるようになる・・・
(Movie Walkerより一部抜粋)

チョルは、いかなる国家体制であっても世界のどこにでもいるような、貧しい家庭生活を営みながらもそれを幸せとしている人物である。
そのようなチョルが、体制の違いから人生を思わぬ方向へと狂わされていく。

チョルに対するスパイ容疑、その取り調べは尋常ではない。
独裁国家から罪のない人々を救出するという思い上がりの人道主義。
そこにあるのは独断と偏見。そして、隣国への憎悪。
それでもまだ救いがあるのは、チョルを信じたいと思う警護官のジヌの存在があるから。

どうもチョルがスパイではなさそうだと感じた韓国警察は、その後の手段として、次にどうしたか。
今度は、彼を亡命させようとの企みである。

このようなことがあったとしても最終的に帰国できたチョル。
しかし、話はまだ終わらない。
今度は北朝鮮からのスパイ容疑尋問である。
こうして、チョルは国家間の勝手な思惑に翻弄される。
そして、ささやかな一個人が犠牲を強いられ、精神も傷ついていく。
このことは、国家にとっては些細なことであっても、当事者には耐えがたい痛恨の、取返しのきかない悲劇である。

キム・ギドクは、朝鮮半島の分断が人々にもたらす苦悩と悲哀の現実を、力強いタッチで冷静に浮き彫りにする。
その「南北の分断」をテーマにした現代社会の矛盾を直視する眼差しは鋭い。
ギドクは言う、「私は南北どちらの味方もしていない。この作品が、南北問題を深刻に考え、解決していくきっかけになればうれしい」と。

朝鮮半島の微妙で神経を使う問題を、真正面から堂々と描き切ったこの作品に、感銘とともに深く考えさせられてしまう。
これは第一級の作品である。

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