ポケットの中で映画を温めて

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『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』を観て

2017年06月14日 | 2010年代映画(外国)
韓国映画 『トンネル 闇に鎖された男』(キム・ソンフン監督、2016年)を観た。

自動車ディーラーのジョンスは大きな契約を成功させ、妻セヒョンと娘が待つ家へ帰ろうと車で向かっていた。
しかし、車が山中のトンネルに差し掛かると、突然頭上から轟音が鳴り響き、尋常じゃない揺れがジョンスを襲う。
ジョンスの脳裏に不安がよぎった瞬間、トンネルは崩壊し、車ごと生き埋めになってしまう。

ジョンスが目を覚ますと、周囲は巨大なコンクリートの残骸に囲まれていた。
手元にあるのはバッテリー残量78%の携帯電話、2本のペットボトルの水、そして娘への誕生日ケーキだけだった。
一方、トンネル崩落のニュースは瞬く間に国内に広がり、救助隊長のキムらが現場に駆け付ける。
しかし、その惨状は想像を遥かに超えていた・・・
(Movie Walkerより)

ガソリンスタンドから走らせての間もなくのトンネル。
入ったと思ったら異常な音とともに間髪を入れずの崩壊。
余分な能書きがない分、観客は観だしてすぐにパニックを追体験させられてしまう。
そして主人公は、如何に?と続く。

片や、トンネルの外ではマスコミが群がっている。
そうか、今ではドローンを使ったりするのかと、その報道方法に感心させられる。
しかし話が進むと、ことの原因が露わになってくる。
開通してからまだ一か月しか経っていないのに事故。
要は、トンネルの手抜き工事である。
これでは事故に遭遇した者にとっては、命の問題であるからたまったものではない。

ボーリングによる救出作戦が始まるが、これまた、思わぬ位置の間違いによるミス。
救出の希望が閉ざされた時、ジョンスの心理状態はどうなるか。
まさしく誰しもが、そうとしか思えない絶望感。
この絶望感に陥った夫に、妻セヒョンが投げかける言葉は胸に響いて思わず涙が出てしまう。
夫婦の重い愛情の証。

ジョンスにとって希望の命綱は、外部とのやり取りができる携帯電話。
その携帯電話も、いずれバッテリーが切れてしまう。
外部の人間にとって、連絡が途絶えた者が20何日も生存している可能性は考えられなくなってくる。
そうなってくると、世論を背にした政府のエゴがむき出しになってくる。
一人の救出活動と、第二トンネルの工事中止による損害とどちらが重要かという問題である。

この映画の優れている点は、政府やマスコミに対して、随所にさりげない風刺が効いていて、
なお且つ、パニックの最中にユーモアも入れて、観客の心を和ませる。
実際問題として、人間がこんなに長く生きられるかということは別にして、
そこには、これがわずか二作目となるキム・ソンフン監督の卓越した才能が伺える。

それに加えて、出演者がいい。
中でも、夫を想い疲れて絶望の淵に立たされる妻役のペ・ドゥナがとってもいい。
もっとも私としては、韓国女優はこのペ・ドゥナぐらいしか知らないが、
彼女が出演した『リンダ リンダ リンダ』(山下敦弘監督、2005年)を観た時から、印象深いこの人に惹かれている。

この作品は、娯楽を超えた、第一級の大いに満足のいく映画であった。

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