人それぞれの心 2020-11-29 | アート・文化 人それぞれの心は、とうていはたからはうかがい知れぬものである。笑う者はどこまでも笑うがよい。幕府の仮借ない政略のため罪なくして主家を亡ぼされ、奈落の底にうごめいている浪人者の悲哀は、衣食に憂いのない人々には、しょせんわかってもらえることではなかった。血迷った求女のみれんをあざけり笑ったその人々が、同じ立場に立たされた時、どれほどのことができるというのか-----。 (異聞浪人記│滝口康彦著:講談社文庫「一命」、p34, 講談社, 2011)