NHK大河ドラマ《鎌倉殿の13人》、第11回<許されざる嘘>で、源義円(演者は成河、敬称略)が頼朝に戦略を問われ『孫子』計篇の「五事」を述べる件があった。弓の名手で和歌にも通じ頼朝の覚えがめでたい義円を追い払うべく、同母弟の義経は源行家に恩義を感じる義円を唆し、秘かに鎌倉から出立させる。しかし託された頼朝宛の書状を破り捨てる一部始終を因縁の梶原景時に見られ、義円が無断で出立したという義経の嘘はあえなく露見する。その結果、恩顧を独り占めできた筈の頼朝からは謹慎を命じられる。
『孫子』計篇にはこれに続き、「兵者詭道也」(戦争とは敵を欺き意表をつくことをならいとする)との記述がある。この言葉が自家薬籠中の物になるには若すぎたのか、ひたすら真摯に義経との血縁の絆を信じたのか。その後、行家軍は墨俣川の戦いで平家に敗れ、義円は戦場の露と消えた。一方、計画通りに眼前の“敵”を退けた義経は、不用意にもその場に証拠となる断簡を残す。彼もまた一つの事に一途であるが故の脇の甘さを免れない。
同じ船に乗り合わせた味方であっても敵になる意の格言、「舟中敵国」は、『史記』、孫子呉起列伝の「由此観之,在徳不在険。若君不修徳,舟中之人尽為敵国也。」(この様に見ますと(国の守りの)全ては徳であり険阻ではありません。もしわが君が徳をお修めにならねば、この船に乗っているものが残らず敵国となりましょう。)が出典である。道や地勢が険しく山河の固めが勝るとも、君主に徳がなければ離反や敵対を招き国は敗れ滅びる。『史記』に従えば、内部抗争を招いたのは兄者で彼等の統率者であった鎌倉殿の不徳のなせる業である。
孫子曰、兵者國之大事。死生之地、存亡之道、不可不察也。故經之以五事、校之以計、而索其情。一曰道、二曰天、三曰地、四曰將、五曰法。
孫子はいう、戦争は国家の重大事である。国民の生死がきまり、国家の存亡の分かれ道であるから、慎重に熟慮して当たらねばならない。そこで五事(道、天、地、将、法)の事項について熟慮し、七計(主、将、天地、法令、兵衆、士卒、賞罰)において敵味方の力量を比較検討し、双方の実情を把握するのである。
参考資料:
町田三郎訳:「孫子」, 中央公論社, 1974
小川環樹, 今鷹真, 福島吉彦訳:「史記列伝(一)」, 岩波書店, 2015
『孫子』計篇にはこれに続き、「兵者詭道也」(戦争とは敵を欺き意表をつくことをならいとする)との記述がある。この言葉が自家薬籠中の物になるには若すぎたのか、ひたすら真摯に義経との血縁の絆を信じたのか。その後、行家軍は墨俣川の戦いで平家に敗れ、義円は戦場の露と消えた。一方、計画通りに眼前の“敵”を退けた義経は、不用意にもその場に証拠となる断簡を残す。彼もまた一つの事に一途であるが故の脇の甘さを免れない。
同じ船に乗り合わせた味方であっても敵になる意の格言、「舟中敵国」は、『史記』、孫子呉起列伝の「由此観之,在徳不在険。若君不修徳,舟中之人尽為敵国也。」(この様に見ますと(国の守りの)全ては徳であり険阻ではありません。もしわが君が徳をお修めにならねば、この船に乗っているものが残らず敵国となりましょう。)が出典である。道や地勢が険しく山河の固めが勝るとも、君主に徳がなければ離反や敵対を招き国は敗れ滅びる。『史記』に従えば、内部抗争を招いたのは兄者で彼等の統率者であった鎌倉殿の不徳のなせる業である。
孫子曰、兵者國之大事。死生之地、存亡之道、不可不察也。故經之以五事、校之以計、而索其情。一曰道、二曰天、三曰地、四曰將、五曰法。
孫子曰わく、兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり。故にこれを経るに五事を以てして、これを校ぶるに計を以てして、其の情を索む。一に曰わく道、二に曰わく天、三さんに曰わく地、四に曰わく将、五に曰わく法なり。(第一・計篇│「孫子」, p7-9)
孫子はいう、戦争は国家の重大事である。国民の生死がきまり、国家の存亡の分かれ道であるから、慎重に熟慮して当たらねばならない。そこで五事(道、天、地、将、法)の事項について熟慮し、七計(主、将、天地、法令、兵衆、士卒、賞罰)において敵味方の力量を比較検討し、双方の実情を把握するのである。
*道:君主と人民が一心同体となる政治。
*天:陰陽、気温や季節など自然界の動向。
*地:戦場までの距離、地形の起伏や広さ、活動しやすいか否かなどの地勢。
*将:才知、信義、仁慈、勇気や威厳など将軍の器量。
*法:軍編成、官職や指揮権などに関する法令。
*天:陰陽、気温や季節など自然界の動向。
*地:戦場までの距離、地形の起伏や広さ、活動しやすいか否かなどの地勢。
*将:才知、信義、仁慈、勇気や威厳など将軍の器量。
*法:軍編成、官職や指揮権などに関する法令。
参考資料:
町田三郎訳:「孫子」, 中央公論社, 1974
小川環樹, 今鷹真, 福島吉彦訳:「史記列伝(一)」, 岩波書店, 2015