詠物(二)白 葛子琴
一片氷心涅不緇 一片の氷心 涅(でつ)すれども緇(くら)まず
何論墨子謾悲糸 何ぞ論ぜん 墨子謾(みだ)りに糸を悲しむを
紗窓雪色攤書夜 紗窓の雪色 書を攤(ひら)く夜
紙帳梅花入夢時 紙帳の梅花 夢に入る時
風雨草玄嘲未解 風雨 玄を草すれども 嘲り未だ解かず
星霜養素道難移 星霜 素を養えども 道移り難し
世明皓首終無用 世明らかなれば 皓首終に用うる無く
擬向商山採玉芝 商山に向いて玉芝を採らんと擬す
「葛子琴 中島棕隠」, p137-140
参考資料:
水田紀久注:江戸詩人選集 第六巻「葛子琴 中島棕隠」, 岩波書店, 2002
金谷治訳注:「論語」, 岩波書店, 2001
早川光三郎著:新釈漢文大系58「蒙求 上」, 明治書院, 1977
楠山春樹著:新釈漢文大系62「淮南子 下」, 明治書院, 2010
川合康三編訳:「新編 中国名詩選(中)」, 岩波書店, 2015
白川静著:「字通」, 平凡社, 1997
*不曰白乎、涅而不緇(白しと曰わざらんや、涅すれども緇まず。)/「論語」巻第九
*涅:水底にある黒土、黒める
*緇:黒絹、黒のころも、黒色の僧衣、転じて僧
*墨子見練絲而泣之、爲其可以黄、可以黑。高誘曰、憫其本同而末異。(墨子、練絲を見て之に鳴く。其の以て黄にす可く、以て黒くす可べきが爲なり。高誘曰く、憫其の本同じくして末異なるを憫むなり、と。)/「淮南子」巻十七・説林訓、「蒙求」墨子悲絲・楊朱泣岐
*一片氷心在玉壷(一片の氷心 玉壷に在り)/芙蓉樓送辛漸二首・其一(王昌齢)