述懐 魏徴
中原還逐鹿 筆投事戎軒 縦横計不就 慷慨志猶存
杖策謁天子 驅馬出關門 請纓繋南粤 憑軾下東藩
鬱紆陟高岫 出没望平原 古木鳴寒鳥 空山啼夜猿
既傷千里目 還驚九逝魂 豈不憚艱険 深懐國士恩
季布無二諾 候嬴重一言 人生感意氣 功名誰復論
中原還た鹿を逐い、筆を投じて戎軒を事とす。縦横の計(はかりごと)は就らざれども、慷慨の志は猶お存せり。策に杖りて天子に謁し、馬を駆りて関門を出づ。纓(えい)を請うて南粤(なんえつ)を繋ぎ、軾(しょく)に憑りて東藩を下さん。鬱紆(うつう)高岫(こうしゅう)に陟(のぼ)り、出没平原を望む。古木に寒鳥鳴き、空山に夜猿啼く。既に千里の目を傷ましめ、還た九逝の魂を驚かす。豈に艱険を憚らざらんや、深く国士の恩を懐う。季布に二諾無く、候嬴(こうえい)は一言を重んず。人生意気に感ず、功名誰か復た論ぜん。
前野直彬注解:「唐詩選 上」, 岩波書店, p22-26, 岩波書店, 1972
高蘭山著, 翠溪画:「唐詩選畫本 五言古詩一」天明四年癸巳, 嵩山房