花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

桑葉(そうよう)│桑椹(そうじん)│桑枝(そうし)

2015-05-15 | 漢方の世界


医院の駐車場では、桑の木が赤や紫色の実をたわわに実らせ始めた。桑はその葉、茎、実のいずれもが生薬となり、有用で無駄のない樹木である。桑の葉から得られる生薬は「桑葉(そうよう)」で、辛涼解表薬に分類され、効能は疏散風熱、清肺潤燥、平肝明目(風邪や肺の熱を冷ます、あるいは肝の高ぶりをおさえる)である。桑の実は「桑椹(そうじん)」と称して養血薬に属する生薬になり、滋陰補血、生津、潤腸通便(体の潤いや血を補う、腸に潤いを足して便を出しやすくする)の作用を持つ。童謡『赤とんぼ』にて「山の畑の桑の実を、小篭に摘んだはまぼろしか」と歌われた桑の実であるが、どちらかというと体を冷やす寒の性質があり、脾胃が冷えていて便がゆるくなり易い方は多くを召し上がらない方が無難である。さらに桑の若枝から得られる「桑枝(そうし)」は祛風湿薬に分類され、袪風湿、通経絡(風湿邪を除き、経絡を通して関節痛や運動障害を改善する)という働きがある。

この桑枝の他に桂枝もそうであるが、枝ものの生薬は、大空に伸びてゆく枝々のように滞った所を通じさせるという作用がある。下の歌は、母が育てている桑の葉も、蚕が食べて繭になり、それが糸となり布となり、願ったならば衣として着られるのに、何故私のこの思いは成就しないのかしらという意である。果たしてどのような願いであったのか。思いは通じて届いたのであろうか。

たらちねの 母がその業(な)る 桑すらに
    願えば衣(きぬ)に 着るといふものを
    万葉集、巻第七・1357

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