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はたまた飼い犬の柴犬まるである。やや夜も更けた頃に散歩から帰り、まだ家に入りたくないと足を踏ん張るまるを、勿論しっかりと門扉の鍵を確認した上で庭に遊ばせていた時である。一旦家の中に戻った私の耳に、突然、わんとまるの一声が響いた。何かと慌てて駆け寄ってみると、家のフェンスに沿った外の街路を行く、偉丈夫なシェパードと飼い主さんの姿が見えた。私とまるが内側から見守る中、やがて飼い主さんは路上で彼(ないし彼女)をきっちり座らせてアイコンタクトをお取りになり、静かに何かを言い聞かせ始めた。シェパードは、飼い主さんをしっかりと見上げて畏まっている。
恐らくリーダーウォーキングを学ぶべく、飼い主さんにしかと寄り添い脇目もふらずに歩く様にトレーニングを受けてきたに違いない。ところがふいに当家のまるが横手から吠えたので、思わずよそ見をして歩行が乱れたのであろう。いうならば、まさしく訓練中のプロないしセミプロに向かって、暇な外野席が「ねえねえ、何をしてんのさ」と無頓着に呼びかけたという構図である。そのような折でもひたすら精神を集中せねばならないのかもしれないが、悪いのは茶々を入れたこちらである。はなはだそのシェパードが気の毒になった。
しばらくすると何事もなかったかの様に、飼い主さんとシェパードはまた向こうに歩き出された。その直後、ちらと一瞬、シェパードはこちらを振り返った。飼い主さんのお教えはよくよく理解しているが、それでもちょっとだけ、まだこちらが気になっているという風である。叱責されてすっかり意気消沈しているのではなさそうで、飼い主さんには申し訳ないがいささか安心した。
お人や他犬に危害が加わる様な事態を防ぐ事は、犬の飼い主として一番心せねばならない。大型犬の飼い主さんは、体が大きいだけにより一層、平時より秩序ある行動がとれるべく躾を厳しく育てておられるのであろう。家に入る時間なのに我儘をたれる犬を、まあもう少しの時間だけ庭で遊ばせてやろうと考える当方などは、沖縄で言う所のテーゲーか、実にいい加減な飼い主とお叱りを受けるに違いない。去ってゆかれた飼い主さんがこのブログを御覧になることはないだろうと思いながらも、最後に謹んで一言を。
落ち度があるのは当方です、どうぞ最後のチラ見は見逃してあげて下さい。