荒城の月 土井晩翠
春高楼の花の宴 めぐる盃影さして
千代の松が枝わけ出でし むかしの光いまいづこ。
秋陣営の霜の色 鳴き行く雁の数見せて
植うるつるぎに照りそひし むかしの光今いづこ。
いま荒城のよはの月 変わらぬ光たがためぞ
垣にのこるはただかづら 松に歌ふはただあらし。
天上影は変わらねど 栄枯は移る世の姿
写さんとてか今もなほ あゝ荒城の夜半の月。
天地雨情│土井晩翠作「晩翠詩抄」, p18, 岩波書店, 2012
月夜聞荒城曲 水野豊州
栄枯盛衰一場夢 相思恩讐悉塵煙
星移物換刹那事 歳月怱怱逝不還
史編読続興亡跡 弔涙幾回灑几前
今夜荒城月夜曲 哀愁切切憶当年
栄枯盛衰は一場の夢 相思恩讐 悉く塵煙となる
星移り物換はるは刹那の事 歳月怱怱 逝きて還らず
史編読み続く興亡の跡 弔涙幾回か 几前に灑ぐ
今夜荒城 月夜の曲 哀愁切切 当年を憶ふ