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檜扇(ひおうぎ)は京都、祇園祭と縁の深い花である。アヤメ科ヒオウギ属の多年草で、互生する葉の形が檜扇に似ているために名付けられた。花後に袋状の鞘に包まれた光沢ある黒色の種子を実らせる。別名が烏扇(からすおうぎ)である所以である。この黒い種子、射干玉(ぬばたま)の様に黒いという意味を踏まえ、「ぬばたまの」は黒、夜、髪などに掛かる枕詞として用いられてきた。
檜扇の根茎から得られる生薬が、清熱解毒薬に分類される「射干(やかん)」で、薬性は苦、寒、帰経は肺経に属し、効能は清熱解毒、消痰利咽(肺熱を冷まして痰を取り、咽頭の熱毒を緩和する。咽喉頭炎の常用薬。)である。射干を含む「射干麻黄湯(やかんまおうとう)」は医療用漢方エキス製剤に収載されていない方剤で、寒飲が上逆して喘咳発作を来す病態に用いられる。咳嗽、呼吸困難があり喘鳴(呼吸する空気が狭くなった気道を通る時にぜーぜー、ひゅーひゅーなどの雑音を発すること)を来す呼吸器疾患が対象となる。出典の『金匱要略』では「水鶏(すいけい)の声」、蝦蟇に似た青蛙の声と記載されている。
末尾は山部宿禰赤人の作る歌、長歌に続く反歌二首の内の一首である。静謐な叙景歌、抒情歌と解するか、あるいは梅原猛著『さまよえる歌集』(集英社、1982)において精力的に論述されたように夜の鎮魂の歌と見るか。奇しくも祇園祭はかつて祇園御霊会(ぎおんごりょうえ)と称された。御霊会は疫病や天変地異をもたらすとされた御霊を鎮魂するために行なう儀礼である。
ぬばたまの 夜の更けゆけば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く 万葉集 巻第六 山部宿禰赤人
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