久しぶりに、孫のいよちゃんに会ったら、前歯が一本なくなっていた。笑ったとき、いたずらっぽくみえる。乳歯が抜けかかっていたのを、えいやっと自分で抜いてしまったらしい。それを見て母親はびっくりしたと話していた。
その母親は、初めて乳歯が抜けたとき大声で泣いたものだった。親子でもたいそう違うものだ。
わが家に来ると、いよちゃんはどこからか、おはじきを取り出してくる。彼女の母親が、子どもの頃に遊んでいたものだ。私は昔の男の子だから、おはじきは得意ではない。それで、ちょうど組みし易い相手として、私が選ばれることになる。
彼女は負けず嫌いだから、ズルばかりする。ルールは無視するし、形勢が悪くなると、いっきにかき集めて自分のものにしてしまう。そんな、おはじき遊びだった。
きょうは様子がすこし違っていた。おはじきとおはじきの間に指を通す。そのとき微かにでも指が触れると、彼女はあっさりと手を引っ込める。ちゃんとルールを守っているのだ。
私も真剣になった。ガラスの小さな玉をはじくとき、自分の指がすごく無骨にみえた。おはじきの玉はやはり、女の子の細い指の方が似合っている。
ガラス玉を球形にしたのがビー玉で、押しつぶして扁平にしたのがおはじきだ。ふたつのものは、男の子と女の子の遊びの領域を分けていた。ビー玉は戸外の遊びで、おはじきは室内の遊びだった。男の子と女の子の間で、ガラス玉遊戯の越境はなかった。
ただ、ガラス玉はどちらもさまざまな色模様が入っていて、宙空にかざすと、その中に不思議な絵柄が見えるようだった。初めて宇宙の輝きを覗くみたいな、ちょっぴり心躍る体験だったかもしれない。
おはじきもビー玉も、いまでは珍しい遊びになってしまった。おはじき遊びは、おはじきとおはじきの間隔がだいじだ。うまく当てたり外したりして一喜一憂する。
いよちゃんの口元からのぞく前歯の隙間が、おはじきとおはじきの隙間とだぶって、おかしかった。
わがままな女の子が、まともな遊びができるようになったのは、乳歯が一本抜けて、その分だけ幼さがぬけたからかもしれない。
「2024 風のファミリー」