風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

秋の詩集2020

2020年09月17日 | 「新エッセイ集2020」

 

 

やまぶどう

きょう
夕焼けをみていたら
いきなり空の雲が
むらさき色の舌をだした

空よりもずっと遠いところ
飛行機にのってバスにのって
橋も渡ったのに
ここは山ばかりなのね
と少女はいった

だけど少女は
やまぶどうを知らなかった
すこし甘くてすこし酸っぱい
山のけものになって
口の中がむらさき色に染まる
わらうと怖かった

やまぶどうの秋は
つかのま
むらさき色の舌を出してさよならする
橋の向こう
小さな鬼になった少女が
帰っていった

 

*

潮騒

サンマを丸ごと
皮も内臓もぜんぶ食べた
それは
ゆうべのことだ

目覚めると
私の骨が泳いでいる
なんたるこった
誰が私を食べてしまったのか
どこをどうやって
朝まで
生き延びてきたんだろうか

外では騒がしい音がしている
もう誰かが
朝の骨をかき集めている



*

音信

鳥になりたいと思った
そしたら風になった

はばたくと風は
いちまいの紙だった

会いたい人がいる
その街だけが地図になる

翼で交信する
風の声も鳥に似ていた



*

コスモス

ネットオークションで
小さな駅を買った
小さな駅には
小さな電車しか停まらない

小さな電車には
家族がそろって乗ることができない
いつのまにかひとりずつ
海をみるため
家を出ていった

駅長さんがひとり
せっせと駅のまわりに
コスモスを植える
秋になると満開になって
小さな駅は見えなくなった

電車が通過するたび
コスモスの花がくるくる回る
たぶん
海までは遠い

 

 

 



エッセイ集を本にしました



お手元にとっていただける方
喜んで差し上げます
パソコンは「メッセージ」か「コメント」欄から
スマホは「コメント」欄から
いずれも(公開非表示)
送付先をお知らせください
折り返し送らせていただきます





 

この記事についてブログを書く
« 記憶の花びらが | トップ | まだ朝顔は咲いている »
最新の画像もっと見る

「新エッセイ集2020」」カテゴリの最新記事