やまぶどう
きょう
夕焼けをみていたら
いきなり空の雲が
むらさき色の舌をだした
空よりもずっと遠いところ
飛行機にのってバスにのって
橋も渡ったのに
ここは山ばかりなのね
と少女はいった
だけど少女は
やまぶどうを知らなかった
すこし甘くてすこし酸っぱい
山のけものになって
口の中がむらさき色に染まる
わらうと怖かった
やまぶどうの秋は
つかのま
むらさき色の舌を出してさよならする
橋の向こう
小さな鬼になった少女が
帰っていった
*
潮騒
サンマを丸ごと
皮も内臓もぜんぶ食べた
それは
ゆうべのことだ
目覚めると
私の骨が泳いでいる
なんたるこった
誰が私を食べてしまったのか
どこをどうやって
朝まで
生き延びてきたんだろうか
外では騒がしい音がしている
もう誰かが
朝の骨をかき集めている
*
音信
鳥になりたいと思った
そしたら風になった
はばたくと風は
いちまいの紙だった
会いたい人がいる
その街だけが地図になる
翼で交信する
風の声も鳥に似ていた
*
コスモス
ネットオークションで
小さな駅を買った
小さな駅には
小さな電車しか停まらない
小さな電車には
家族がそろって乗ることができない
いつのまにかひとりずつ
海をみるため
家を出ていった
駅長さんがひとり
せっせと駅のまわりに
コスモスを植える
秋になると満開になって
小さな駅は見えなくなった
電車が通過するたび
コスモスの花がくるくる回る
たぶん
海までは遠い
★
エッセイ集を本にしました
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