今年もハナニラの花が咲いた。
ハナニラはニラに似た強い匂いを放つが、それ自身も季節を嗅ぎつける鋭い嗅覚をもっているのか、ベランダの忘れられたような鉢に、いち早く春を運んでくるのもこの花だ。
ベランダでハナニラが咲き始めたのはいつ頃からだろう。
最初は、おそらく小鳥が運んできたものだろうが、ある年の春、うす青色の小さな花を見つけた。最初はひとつかふたつひっそりと咲いた。雑草にしてはきれいだなと思った。そんな春があった。
また、ある年には、ベランダの植木鉢のすべてを侵食するほどの勢いになった。その頃は家の中もにぎやかだった。幾度かは家もかわった。娘が結婚した。孫が生まれた。息子が家をとび出した。そして、そして、ハナニラも咲いた。季節はあわただしく巡って過ぎた。
そして、ふたたびの春、今年もまたハナニラの花は咲いた。ノボタンの鉢でわずかに生き残った球根だったが、すでに枯らしてしまったノボタンにはおかまいなしに、にぎやかなハナニラの春が始まろうとしている。いまのところまだ、花は一輪だけの寂しい春だけど。
★エッセイ集を本にしました
(A5判・本文168頁)
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