砂浜に打ち上げ られて目覚めれば しょぼくれたジジィ いつの間にか 足は砂にめり込む重さ 頭は風に揺られる ゴム風船の軽さ ふわふわくらくら 夢路の続きをふらつきながら まずは愛する朝顔の 夏から秋への花柄は 朝ごと小さくなりつつも 今朝はざっと68輪と 数で勝負ときたか その健気な精いっぱいを 数えてみる楽しみ それだけが楽しみなのかと 花の期待はやや寂しくも 花には花の いつもの朝があり いつもの花は変わらねど うるわし朝顔姫の 面影いまは遠き幻となり 一炊の夢はフェードアウト ジジィはもはやジジィなり 波打ち際に佇んで 試行錯誤五里霧中 玉手箱を開けたるは あわれ相方も同じ 昼の朝顔しおれた姿 ババァもすでにババァなり 霧の彼方の水平線 浜のことも忘れる始末 おまけに言葉は異邦人 茄子も胡瓜も 名なしの権兵衛 朝の支度と言いながら 台所に立つ意思もなく そこは大根ジジィの代役となり 味噌は島原やら越後やら 萎れた葱やほうれん草 具は冷蔵庫の残りもの なんとか朝は凌いでも やがて昼が来て夜が来て 脚の筋肉が弱いジジィなり 頭の神経が弱いババァなり ふたり足しても採算合わず 足しても引いても誤算だらけ 正してみても無視してみても 右や左にすれ違うばかり ときには滑稽 ときには悲惨 明日はなんとかなるのやら 明日は明日の風が吹く なんとかなるさと風まかせ 竜宮城も乙姫様も 夢か現か昔むかし 過去も未来も日足は縮み 焦りと諦めの白波だち 打ち寄せる浜を右往左往 ようやっと一念発起 助けた亀に連れられて どうにかこうにか心機一転 よろける脚を踏ん張って われはうたえども やぶれかぶれ
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