風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

新しい朝は新しい匂いがする

2015年11月27日 | 「詩集2015」

新聞


僕たちは退屈なので
仲間が集まると新聞をよむ
四角くて大きな新聞紙のまわりを
楽しいゲームをするようにとりかこむ
それは本当に新聞だろうか
誰かがそれは新聞だと言った
だからそれは新聞なのだ

新聞の文字は小さくてかたい
まいにち新しいフォントが作られるから
知らない言葉や記号がたくさんある
新しい国が生まれ
新しい街の名前が作られ
新しい顔写真と古い顔写真がさしかえられ
僕たちは混乱する

水たまりのように
暗いニュースを跳び越える
きっと水たまりの中には死体がある
たくさんあるのを戦争という
数えられるのを殺人という
誰かがそういって解説するので
水たまりはどんどん増える

この新聞は古いと誰かが言う
古くても新しくても同じだと誰かが言う
変わるのは日付だけだと誰かが言う
日付はいちばん新しい
新しいけれど退屈だ
僕たちはもう遊ぶのも退屈だけど
鳥みたいに空も飛べないから
新聞紙を紙ヒコーキにして
公民館の屋上にあがる

風はくまなく街の屋根に吹いている
屋根はまだ目覚めない
瓦の下には死体もないとおもう
誰かがひそかに隠しているとしても
そのていどなら戦争ではない
新しい朝のニュースをのせて
紙ヒコーキは平和な屋根を滑空する
新しい朝は新しい匂いがする

















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