風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

夢みる夢は夢のまた夢

2023年07月04日 | 「新エッセイ集2023」



夢をみた いつものようで いつものようではない 道があり人家がある 道はどこへ通じているのか 歩き続けているが バス停も駅もない そのうちにハンドルを握って 危うい運転をしていたりする 夢はきれぎれ 勝手気ままに変転する 意味づけられたり 納得できるようなものもない それでもしんどさや迷いはある だから体調だとか 心的な要因はあるのかもしれない 見たくはないが夢はよく見る だが目覚めてしまえば夢は夢 ただ通り過ぎただけのもの 始まりも終わりもない 夢の跡で始まるのは いつもの朝であり きょうも朝があることを知る 変な感覚だが 朝というものを 改めて確かめてしまう そういう朝を 一輪の花に気づかされる のんべんだらりではなく 朝顔の朝は あたらしい花をひらく 毎朝あたらしい朝がある これが花の実感である 梅雨は明けたかどうか すでに夏の始まりか だらだらと蒸し暑い日が続く 朝らしい朝はあるか 昼間らしい昼間はあるか 夜らしい夜はあるか 眠れば夢らしい夢も 見ていたり見なかったり ただ耐えているうち 心も体もだらしなく ほとんど伸びきっている そんな後では 朝顔だけが蔓を延ばし 朝を生きているようにみえる 朝顔の花には朝がある 日中すぐに萎れてしまうが それでも始まりの朝がある そして一日の終わりには 萎れた花のかげから 新たな蕾が立ち上がってくる その尖った蕾は 新鮮な鉛筆に見える 鉛筆の先が少しずつ伸びて あしたの朝を待ちかまえている きょうの朝が終わるとすぐに あしたの朝を描こうとしている 蕾は丁寧に研がれた 勤勉実直な鉛筆にみえる かつてはこの身も 鉛筆で文章を書いていた 芯が太い4Bか5Bの 黒くて濃いものを愛用した 力を入れなくてもすらすら書ける 素直にイメージを滑らせていける その軟らかさを好んでいた そんな時代は夢に消えた 新しい夢を見るために 鉛筆をキーボードに代えた キーを叩けば言葉が生まれる ダイレクトな反応がいい すばらしい朝だ 慣れれば4Bよりも滑らかだ だが新しい夢も古くなる 最近はキーを叩くのも億劫になった いくらキーを叩いても 言葉は生まれてこない 叩けば言葉が生まれるのではなく 言葉があってキーが動くのだ 指先でノックするだけでは 言葉のドアは開いてはくれない ノックする前に 自ら言葉を発する脈動が要る 脳みそを熱くし 血が迸り出るほどの エネルギーがいるのだが なんだか昼間の朝顔の花 萎んでいくばかりで 朝顔姫を恋するパッションも 振り向いても前向いても いまは何処へ行ったやら 夢のまた夢 夢の夢こそ哀れなれ 夢路をさまようばかりなり それでもまだまだ儚くも 夢の跡には朝がある たとえ線状降水帯のかなた 雲のバケツに穴が空き あの天の川が決壊しても 君のことは想い続けたい ブラインドタッチ ノータッチ なかなか言葉には届かないけど




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