首相10月訪中 「一帯一路」に一線を引け
2018.9.17 05:00
安倍晋三首相と中国の習近平国家主席がロシア・ウラジオストクで会談し、安倍首相の10月訪中を申し合わせた。
習氏は「日中関係は正常な軌道に入った」と述べ、安倍首相は「協力の地平線は広がりつつある」と応じた。首相は習氏の訪日も招請した。
首脳同士が笑顔で相対する演出により、冷え切っていた日中関係が改善に向かっていると印象付けたいのだろうが、前のめりな動きに懸念を覚える。
軍事、経済面での中国の覇権主義的な振る舞いには何の変化もない。日本の脅威を減じる行動がないのに友好の言葉に惑わされるようでは危うい。中国が接近を図る意図を冷静に見極めるべきだ。
会談では、東シナ海を「平和、協力、友好の海」とするよう努力することで一致したという。
だが、尖閣諸島周辺での中国公船の領海侵入は常態化しており、にわかにやむとは思えない。日中中間線付近での一方的なガス田開発も同様である。日本の主権や権益は損なわれたままだ。
日中平和友好条約締結40周年ということで、日本が発言を遠慮することが懸念される。南シナ海の軍事化など、中国の拡張主義に歯止めをかけるのが「法の支配」を掲げる日本の役割ではないか。
中国が日本に接近する要因の一つは、通商政策をめぐる米国との対立激化だろう。反保護主義を名目に対米共闘に引き込みたいのだろうが、日本が対中外交で優先すべきは、知的財産権保護などで中国に改善を求めることである。
中国が勢力圏拡大を目指す巨大経済圏構想「一帯一路」も順風満帆とはいかない。インフラ投資を受けた相手国の過剰債務問題が表面化し、「新植民地主義」の批判が出ている。
会談では「一帯一路」を念頭に第三国での経済協力で合意した。だが、中国と組めば、覇権主義を後押ししかねず、日本が過去の経済支援で培った途上国の信用も損なわれる恐れがある。一線を引いておくべきだろう。
北朝鮮問題では非核化への緊密な連携を確認したが、制裁の厳格な履行を主張する日本に対し、中国が北朝鮮の後ろ盾としての立場を強めるなど、ここでも日中の立場の違いは際立つ。
首相訪中では、無条件に関係改善に突き進むのではないことを明確にしてほしい。
(産経ニュース)
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親中派にだまされるな 日本企業や邦銀のためになる?「日中通貨スワップ協定」実は習氏の尻拭い
2018.9.22 10:00
中国が米国の対中制裁関税「トランプ弾」に直撃され、メディアは世界の金融市場不安をあおり立てるが、浅慮に過ぎる。トランプ政権の対中強硬策なかりせば、中国は従来通り債務主導で傍若無人の対外進出策をとり続け、金融市場と安全保障両面で世界不安がどうしようもなく高まる。(夕刊フジ)
米中貿易戦争はエスカレートする一方だ。トランプ政権は24日に中国からの輸入2000億ドル(約22兆円)分を制裁対象に追加する。すでに制裁開始済みの500億ドルと合わせ2500億ドルに達するが、トランプ大統領は中国が追加報復すれば全ての対中輸入品に25%の制裁関税を適用すると表明している。トランプ政権はこれによって年間3800億ドルに上る対中貿易赤字を早急に2000億ドル削減する目標を立てている。
現在、国際金融不安の元凶とされる中国の債務は銀行、「影の銀行」合わせた総社会融資ベースでみるとリーマン・ショックから現在までの10年間で5倍、対国内総生産(GDP)比は10年前の1・1倍から2・1倍に跳ね上がった。
急速な債務膨張を支えてきたのが対米貿易黒字である。米国の対中貿易赤字は10年間合計で2・85兆ドルで、中国人民銀行はドル換算でほぼ同額の人民元資金を発行してきた。人民銀行資金は商業銀行などを通じて同国の融資総量(債務にほぼ匹敵)を19兆ドル以上増やした。
この「錬金術」を可能にするのが、中国特有の通貨金融制度で、中国人民銀行は自身が決める基準交換レートで流入するドルをすべて買い上げ、人民元資金を市中銀行経由で企業、地方政府、家計へと供給する。人民銀行は外貨を裏付けにして融資を加速させ、不動産開発や工業生産に振り向ける。同時に、対外投資や軍拡にも外貨を投入してきた。
習近平国家主席肝いりの巨大中華経済圏構想「一帯一路」の推進や、南シナ海などへの海洋進出はリーマン後の米金融緩和に支えられてきたわけだ。
米中貿易戦争はそんな習政権の野心に冷水を浴びせる。中国の国際収支黒字は年間1000億ドル前後だから、トランプ政策は中国を赤字国に転落させる腹積もりだ。外貨不安を抱える中では対外進出策も思うに任せられなくなる。
窮地に立つ習政権が頼りにするのが世界最大の債権国日本である。グラフは中国の対外債務と邦銀の対外融資の推移である。中国は対米貿易黒字や外国からの対中直接投資を通じて外貨をためてきたが、海外企業買収や資本逃避のために外貨流出も激しい。そこで外債発行や銀行借り入れを通じて対外金融債務を急増させている。
それに最も貢献しているのが日本の金融機関だ。邦銀は10年間で国際金融市場に1・36兆ドル資金を供給してきたのに対し、中国は海外からの借り入れを1・4兆ドル増やしている。親中派の経団連や財務・経産官僚、日銀は日中通貨スワップ協定締結が日本企業や邦銀のためになると言い立てるが、だまされてはいけない。それは習氏の尻拭いなのだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)
(一部抜粋)
31日に開かれる日中財務対話に出席するため訪中した麻生太郎副総理兼財務相は30日、北京で中国共産党序列7位の韓正副首相、対米通商交渉を担当する劉鶴(りゅう・かく)副首相と相次いで会談した。日中双方はトランプ米政権を念頭に「保護主義的で内向きな政策はどの国の利益にもならない」との認識で一致した。麻生氏が会談後、記者団に明らかにした。
31日には麻生氏と中国の劉昆財政相が参加する日中財務対話が開かれる。緊急時に互いの通貨を融通しあう「通貨交換(スワップ)協定」の早期再開に向けた条件などを協議する方向。だが、日本にとって最大の同盟国・米国は中国との「貿易戦争」を激化させており、日本は配慮せざるを得ない“板挟み”の状況に追い込まれているのも事実だ。
日中関係は平成24年に日本政府が尖閣諸島(沖縄県石垣市)を国有化したことを契機に急速に冷え込み、スワップ協定は25年に停止された。安倍晋三政権は関係改善に努め、今年5月の日中首脳会談ではスワップ協定の早期再開で合意。人民元建てで中国の株式・債券へ投資できる「人民元適格外国機関投資家(RQFII)」で、日本の金融機関に2千億元(約3兆2600億円)規模の投資枠を与えることも決めた。 (産経ニュース)
10月に首相が訪中予定とのことで、8月には麻生財務相と中国財政相との間で大規模のスワップ再開をはじめ日中協力の話が着々と進んでいるようです。
アメリカが中国からの輸入品に関税をかけ、中国もやり返すという米中間通商政策摩擦の中、中国経済はかなり深刻な状況のようです。中国から見れば、日本にすりよっての日中スワップ再開は喉から手が出るほどの話でしょう。この3兆円(以前の9倍)規模のスワップは、しかし、日本にどのようなメリットが? もちろん、中国発の金融ショックがもしあれば、日本にも大きなリスクありで、「政府が対中関係の改善を重視するのは日本企業の対中ビジネスが円滑に進められる環境を確保するため」とのことですが、この一つには、日本の大手銀行みずほや三菱UFGが人民元建ての「パンダ債」なるものを売り出したそうで、これが関係しているではと考えている人もいます。
が、中国がいままでのような覇権主義をこれからあきらめるわけはなく、いざとなれば3兆円スワップと共に、日本が中国覇権主義と中国経済悪化に巻き込まれていくリスクも考えなければならないわけです。
「会談では「一帯一路」を念頭に第三国での経済協力で合意した。だが、中国と組めば、覇権主義を後押ししかねず、日本が過去の経済支援で培った途上国の信用も損なわれる恐れがある。」
はたして、このスワップ大規模再開や第三国での中国との共同事業など日本の中国への前のめりの姿勢が、日本と世界にとってよいことなのか? 保護主義反対はともかくも、アメリカを刺激することにならないのかと多くの人が心配しています。
政府には本当に、前のめりになることなく、一線を引いて、中国には冷静に対応していただきたいと思います。