【正論】京都大学教授・佐伯啓思 「マルクスの亡霊」を眠らせるには
2008.7.31 02:33 (後半部分を抜粋)
≪「経済外的」な規制必要≫
その結果、90年代に入って、利潤の源泉は、低賃金労働や金融資本の生み出す投機へと向かった。要するに、製造業の大量生産が生み出す「生産物」ではなく、生産物を生み出すはずの「生産要素」こそが利潤の源泉になっていったのである。かくて、今日の経済は、確かに、マルクスが述べたような一種の搾取経済の様相を呈しているといってよい。
資本主義が不安定化するというマルクスの直感は間違っていたわけではない。しかしむろん、マルクスの理論や社会主義への期待が正しかったわけでもない。マルクスに回帰してどうなるものでもないのである。
問題は、今日のグローバル経済のもつ矛盾と危機的な様相を直視することである。市場経済は、それなりに安定した社会があって初めて有効に機能する。そのために、労働や雇用の確保、貨幣供給の管理、さらには、医療や食糧、土地や住宅という生活基盤の整備、資源の安定的確保が不可欠であり、それらは市場競争に委ねればよいというものではないのである。
むしろ、そこに「経済外的」な規制や政府によるコントロールが不可欠となる。「無政府的」な資本主義は、確かにマルクスが予見したように、きわめて不安定なのである。マルクスの亡霊に安らかな眠りを与えるためには、グローバル資本主義のもつ矛盾から目をそむけてはならない。(さえき けいし) (MSN産経ニュース)
タイトルの「『マルクスの亡霊』を眠らせるには」という部分に目を引かれた。
「若い人を中心に急速に左傾化が進んでいる。しかもそれはこの1、2年のことである。小林多喜二の『蟹工船』がベストセラーになり、マルクスの『資本論』の翻訳・解説をした新書が発売すぐに数万部も売れている」(文中より一部抜粋)そうである。
今になって『「蟹工船』だのマルクスの『資本論』が売れているということがどういうことなのかはよくわからないが、たぶん、資本主義押せ押せで繁栄してきたはずの日本経済が、グローバル化でほころびを見せ始めており、この現状と未来に不安を抱く人々の受け皿としての現象なのかもしれないと思う。私はマルクスを読んだわけでもなく経済論に詳しくもないので、こういう方面について書くことを躊躇したけれども、佐伯氏の後半の文章はある程度は理解できた。現状の日本経済が問題を抱えていようとも、それは、グローバル経済そのものが間違っていたり、社会主義が正しいということではない。「市場経済は、それなりに安定した社会があって初めて有効に機能する。」 「『経済外的』な規制や政府によるコントロールが不可欠』ということだろう。
「製造業の大量生産が生み出す「生産物」ではなく、生産物を生み出すはずの「生産要素」こそが利潤の源泉になっていったのである。かくて、今日の経済は、確かに、マルクスが述べたような一種の搾取経済の様相を呈している」
「グローバル経済のもつ矛盾と危機的な様相を直視すること」
「『経済外的』な規制や政府によるコントロールが不可欠」
「無政府的」な資本主義は、確かにマルクスが予見したように、きわめて不安定なのである。」 (部分的に抜粋)
先日、中川昭一氏の緊急提言『日本経済復活のための13の政策』を読んだ。中川氏は、上記の佐伯氏が述べておられるグローバル経済がもつ矛盾や危機を修正克服するための具体的な政策として、この提言を書いていると思う。グローバル経済が引き起こした現在の諸々の社会事象を効果的に具体的に修正することによって、下り坂にある日本経済の安定を取り戻し、国民が、経済復活とある程度の安定の上でよい将来をイメージできることが現在まず肝要であるということ。問題の多い現状打破のために(たとえば外国人人材を誘致することや移民を誘致することを考えるよりも先に)、するべきことやできることがあること。そのために我々は、今、何をするべきかということを中川氏はおっしゃっているのだろうと思う。
大きな要点として、表からは見えにくい、そして、今の日本が見落としている埋もれさせている「ヒト、モノ、カネ」を活性化させることによって、我が国の潜在的な力を掘り起こし日本経済の復活と安定を目指す、そのために必要だと思われる13の具体的な政策提言をされておられたと思う。
自民党が今なすべきことは、これまで、まるで野党の専売特許であったかのように見えていた「社会的弱者への視点と政策」 その錯覚をくつがえし、自民党のものとすること。そのことがおのずから危機的社会を安定に導くことになり、それが日本経済の復活と自民党の復活を同時に得る手段となるのではないかと思う。
緊急提言・「改革のための改革」を止めよ 日本経済復活のための13の政策 中川昭一(中央公論8月号)
※本文中、灰色部分、追記しています。