今回は、『生きる力 心でがんに克つ』(なかにし礼:著、講談社:2012年刊)という本をご紹介しましょう。この題名を見て、心でがんを治したのかと思ってこの本を読むとがっかりしますが、本ブログの「膀胱がん」でご紹介した「陽子線治療」について詳しく知りたい方には、この本は最適です。
著者は、作詞家として有名ですが、喉の違和感や胸のむかつきがあったため、2012年2月24日に検査を受けます。その結果、食道がんが見つかり、その4日後、CT検査によってステージ2の後半と診断されます。
ここで、普通の人なら手術を考えるのでしょうが、著者は心筋梗塞の持病をかかえていて、できるだけ心臓に負担のかからない治療法を探します。しかし、どこの病院でも、抗がん剤でがんを小さくした後、手術で食道を切除し、放射線を当てて再発を予防するよう薦められます。
この本には、「医者たちはことごとく私の意見を聞こうとせず、彼らだけの論理で事を運ぼうとしつづけていた。」と書かれていて、教えられた手順に従って病気を処理しようとする、まるでロボットのような医師の姿が描かれています。どうやら、医師というのはかなり強力な洗脳を受けているようです。
しかし、著者には、<「もとのままに戻ること」が「治ること」であって、何かを失って治るというのは、真の意味で治るとは言えないと思う。>という信念があり、とにかく食道を切除しないでがんを治す方法を模索します。
3月7日には、内視鏡手術の名医に診察してもらいますが、結果は内視鏡手術は不可能というものでした。したがって、著者には、この時点で抗がん剤治療と放射線治療の2つしか選択肢がなかったようです。
また、最初に放射線治療を受けると、傷口の接着が悪くなるため、もう手術は受けられなくなるという警告も受けていたため、著者は精神的にもかなり追い込まれていたようです。
その後、著者はやっとのことで抗がん剤治療と放射線治療だけをやってくれる病院をみつけ、3月15日から25日まで入院して治療を受けます。ただし、放射線治療に関しては、総量60グレイ、1日2グレイの放射線量に耐えられず、すぐに治療を中止します。なお、グレイの意味については、本ブログの「放射線治療について」を参照してください。
退院の翌日、著者は妻から陽子線治療の情報を入手し、これに命を懸けることにします。著者は、陽子線治療の一環として、4月23日から28日まで入院して2回目の抗がん剤治療を受け、4センチあった患部が2センチほどに縮小します。
そして、いよいよ5月16日から、週5回×6週間、計30回の陽子線治療を開始します。また、6月18日からは、3回目の抗がん剤治療のため入院しています。さらに、北里研究所病院で、白血球を体外で培養して体内に戻す免疫療法も並行して受けていたそうです。
結局、著者のがん治療は6月28日に終了し、7月20日の検査で完治を確認したそうです。また、陽子線治療にかかった費用は300万円だったそうです。
なお、この本によると、陽子線治療の現場は非常に雰囲気が明るく、スタッフが笑顔で「完治を目指しましょう。」と声を掛けてくれるそうです。どうせ治療を受けるのなら、やはりこういう病院で治療を受けたいものですね。
以上のことから、この本の趣旨は、もし医者の言いなりになっていたら、心臓の弱い著者には耐えられない手術や放射線治療を受けさせられるところを、強い心で拒否し、自分に最適な治療法を自分の力で探し出したので、結果的にがんに克つことができた、ということのようです。
そして、この本を読んだ人は、最後は「陽子線治療万歳!」という認識を持つことになりそうですが、果たしてそれは正しいことでしょうか?
確かに、著者が積極的にがん治療に関与したことは立派なことですし、また、患部を切除することががん治療だと誤解しているがん患者にとって、この本は、誤った考えを改めるきっかけにもなるでしょう。
しかし、そもそも、がん治療とは何でしょうか? がんを殺すことでしょうか? もし、がんを無理に殺そうとすれば自分も傷つきます。なぜなら、がん細胞は自分自身なのですから。
著者も、今回の治療では、細胞のDNAがかなり傷ついているはずで、これが新たな発がんの原因になる可能性は無視できないと思われます。がんを殺す治療法では、患者はがんの再発におびえながら生きていくことになるのは間違いないでしょう。
しかし、がん細胞は自分自身だからこそ、自分を変えることさえできれば、がんは簡単に治ります。
もし、このことを知っていれば、がんをこんなに手間暇かけて治している現状に誰しも驚くでしょう。陽子線治療のための加速器は、1基作るのに80億円かかるそうですから、このような先端医療は、雇用創出という面では効果があるかもしれませんが、「がんは簡単に治る」という知識が普及すれば、いずれ過去の遺物となってしまうのではないでしょうか。