マーク・ラッペ氏が書いた『皮膚 美と健康の最前線』(川口啓明・菊地昌子:訳、大月書店:1999年刊)という本をご紹介しています。今回は第11回目です。
◆シリコン
美容整形というのは、整形外科ではなく、形成外科という体の欠陥を修復する医学の分野に属します。
ただし、形成外科はもともとは口唇裂や口蓋裂などの顔面の大きな先天異常を修復するためのもので、第一次世界大戦においては、負傷した兵士の傷やヤケドの修復が重要な仕事となりました。1930年代になってから、鼻の美容整形が行なわれるようになり、1950年代には顔のシワを取る手術が広く行なわれるようになったそうです。
日本でも、第二次世界大戦後に、乳房・臀部・大腿部を大きくする美容整形が行なわれるようになったそうですが、体に注入された物質によって免疫反応が引き起こされ、強皮症のような皮膚が硬くなる病変が生じたり、免疫細胞が自分自身を攻撃する不治の自己免疫疾患となる人が少なくなかったそうです。
このような状況において登場したのがシリコンです。
シリコンは、飛行機のエンジンの高温でも用いることができる、化学反応を起こさない耐熱性の潤滑剤として第二次世界大戦中に開発されました。
シリコンを注入すれば、大きさや形を自由に調整でき、しかも生理的に無反応なので安全であると宣伝されたので、多くの人が豊胸や顔面のシワ取りなど美容上の理由からシリコンを使用しました。
しかし、実際にはシリコンは体内で代謝され、炎症を起こすことが動物実験で明らかになっていたそうです。袋に密封して用いても、袋が破れないという保証はありませんでした。実際、埋入したシリコンが漏れ出して、慢性的な炎症を起こしたり、自己免疫疾患にかかった人が多数いたそうです。
1973年にはシリコンの注入によって数人の死者も出ましたが、シリコンの危険性について十分な情報が提供されるようになったのは1992年以降だそうで、強い需要に支えられて多くの人にシリコンが直接注入されたり、袋に密封されて埋入されました。
製造元のダウ・コーニング社は、動物実験で観察された副作用を隠して、シリコンは無害であると主張し続けていましたが、44万人以上の被害者を出し、1万9000件もの訴訟を抱えて1995年に倒産しました。
マーク・ラッペ氏の考えでは、巨大な化粧品の市場が生み出され美容整形という新しい分野が誕生したのは、この50年ほどの間に、若さや美しさを保つことが社会的な強迫観念となったためだそうです。
確かに、体内に得体の知れないものを埋め込んでまで美しくなろうと思うのは、普通の精神状態ではないのかも知れません。まずは、あるがままの自分を受け入れることが大切なようです。
次回は、若々しい肌の美容法についてのお話です。