前回は、明治時代のがん治療法をご紹介しましたが、もっと古い治療法がないか探していたところ、神医と尊崇された永田徳本(ながたとくほん)という先生が用いた食物療法を発見しました。
『癌腫の食物療法』(国谷豊次郎:編著、千珊閣書店:1924年刊)という本によると、徳本先生は、天正・寛永の頃の人で、「カク」(膈=がん、または、食道がん)を治す名人だったそうです。
天正・寛永というと、安土桃山時代から江戸時代初期のことですから、当然ながら手術は行なわれていなかったはずですが、彼はどうやってがんを治療していたのでしょうか?
実は、徳本先生は、ハイスンという木の実を処方してがんを治療していたのだそうです。
ただし、当時は、がんの早期発見など不可能な時代ですから、患者のがんは相当進行していたはずで、現代でも治療が困難なレベルの患者が多かったと思われますから、ハイスンの効果もさることながら、徳本先生の腕前が超一流だったのだと思われます。
このハイスンについては、『癌腫の食物療法』以外にも、以下の文献が国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧できます。
『肺結核と癌の征服 リパーゼの話』(市川二太郎:著、千珊閣書店:1925年刊)
『木の実の霊験 木の実応用健全若返り法』(井上正賀:著、新農報社:1925年刊)
『洗心堂癌話』(洗心堂書店:1933年刊)
これらの情報を総合すると、ハイスンは、正確にはハイスンシ(海松子)で、朝鮮五葉松の実のことだそうです。ただし、日本国内に移植された朝鮮五葉松には効能がないそうです。
ハイスンが再び注目されるようになったのは、徳本先生の著書を読んでハイスンのことを知った人物(久保田清市氏)が、がんを宣告されて絶望していた友人にハイスンを煎じて飲ませたところ、医者から見放されたがんが治ってしまったことがきっかけだそうです。
この人物は、これをきっかけに人命救助に興味を覚えて、他にも様々ながん患者にハイスンを勧めて好成績を収めたそうです。その後、この話が医療関係者に伝わり、大正時代には、ハイスンを原料とする「プロチモール」、「カルチノリジン」、「カンクロウヅリン」といった治療薬が開発されました。
『癌腫の食物療法』の序文には、
「ハイスンを食し且つ飲みますと、初期のものは必ず全治します、末期のものでも苦痛を去って、寿命を延長し、同じ死ぬにしても極めて穏やかな大往生を遂げる点に於て不思議な霊力があります。」
と書かれていて、ハイスンは、精製して薬にしなくても素晴らしい効能があるようです。しかも、薬と違って副作用は一切ないそうです。
食べ方は、殻をむいてなかの実をそのまま食べるか、あるいは、他の食材とともに調理して食べてもよいそうです。また、殻にも薬効があり、殻を煎じてお茶として飲んだり、入浴剤として使うことも有効だそうです。
なお、現在では、ハイスンという名前は使われていません。
しかし、「松の実」でインターネット検索をすると、あらかじめ殻がむかれた朝鮮五葉松の実が、それほど高くない値段で売られていることが分かります。また、薬膳料理の素材として、食料品店などでも売られています。
この松の実は、古くは仙人の食べ物とされ、滋養強壮効果や若返り効果も期待できるそうですから、日常の健康管理や美容のために食べるのにも適しているようです。
私も、試しに今月から「上野アメ横 小島屋」の松の実を買って食べていますが、とてもおいしいので、楽しく続けられそうです。また、暑さで食欲がなかったのですが、松の実のお蔭で、胃の調子もよくなったように感じています。
注意事項としては、がんで固形物が食べられなくなった人が、松の実を煎じて飲むことによって食欲が回復した場合、急に普通の食事に戻すのは危険です。本ブログの「大腸の管理-断食」を参考にしていただき、徐々に食事の量を増やすようにしてください。